マヤ・ルンデ著『蜜蜂』(ネットギャリー経由ゲラ、2018/06/30刊)。

蜜蜂の巣箱

蜜蜂が消えているという話を聞いたことがおありだろうか。数年前からか原因不明として報道されている不思議な話で、外国の記事で殺虫剤が原因かもと読んだことがある。原因が分かれば大ニュースだろうから、今のところ分かっていないのだろう。

この小説では、農業や園芸に欠かせない蜜蜂が全部いなくなり、文明崩壊(文中では「最終崩壊」)が起こって都市機能も失われ、食べるものもなくというアポカリプス的な状況が語られる。設定は2098年。

本書は、今まではヤングアダルト(YA)小説を書いていたノルウェー人作家が初めて書いた大人向け小説。ミステリーではしばらく前から北欧は人気で、本書にも謎解きの要素がある。本屋大賞を本国で取り、33か国語に訳されている。最近ジャンルが混じった小説が翻訳ものでは多いらしいが、SFのようでもあり文学のようでもある。『ステーション・イレブン』(読書会レポ)を思い出した。

話には3人の人物が代わる代わる出てくる。少しややこしいので書いておく。

  • 養蜂家で研究者であったが、種子店を営むことになってしまったウィリアムと家族。ヨーロッパの英語圏に住んでいるらしい。
  • 米国在住の養蜂家のジョージとその家族。
  • 中国で夫と幼い息子と暮らすタオ。「最終崩壊」後に生き、崩壊の歴史を語るのは彼女だ。

タオに引きずられて、後の2家族の話も同時に始まったのかと思っていたら、読み進むうち細かいところで矛盾が見つかる。要するにこの話は時間空間を超えて成り立っているのだ。それにはちょっと驚いた。

失われた文明という設定は宇宙もののSFなどにもよく出てくるはずだが、なにか懐かしいような寂しいような気持ちをそそるのはなぜだろう、と上の『ステーション・イレブン』の時もわたしは思ったようだ。今回も500ページ弱の本をほぼ毎日開きながら、「廃墟に行く人はそういう気持ちを味わいたいのかな」と考えていた。中盤でタオが荒れ果てた北京に行く。1軒しか開いていないホテル(逃げそびれたのだ)、誰も来ないのに係員だけがいて開いている図書館。他にも荒れた町の描写があり、うら悲しくうまく形容できない。この本全体を通して、穏やかな筆致ながらも大事なものが指の間からこぼれていくような、取り返しのつかないような感覚が甘美ですらあった。

図書館にあった『ミツバチの歴史』という本が重要な役目を果たすのだが、それが原題になっている。

みな困難の中にあり、負けじと戦っている3家族の行く末がどう出るか、おぼろげながら見えてくるのがやっとラスト30pあたりである。続きが気になって、最後の方は止まらず読んでしまった。文体もこういう話ながら短文をたたみかける感じで入っていきやすかった。行間があるせいか、ページ数も進む。毎晩開くのが楽しみな本だった。

いつもここのブログを読んでいる方は、わたしが科学技術の礼賛者だと思っているかもしれない。でもそれは違っていて、雪国に生まれ育っているので自然には勝てないと思っている。立山連峰なんて神々しい以外の何ものでもない(県内には見えやすいスポットが色々あって、うちの近くにもある)。もし本当に蜜蜂がいなくなってしまったら、虫の生態には未解明なことが多いはずで、きっと専門家でもどうすることもできないだろう。どうにかできるのなら今まで解決法が見つかっているのでは?そういう意味でこの本は怖かった。そのシナリオ通りにことが進むかは別として。

最後に翻訳を手がけられた池田真紀子さんについても触れておく。今回ノルウェーの作家というのにも惹かれたが、半ば翻訳家さんでこの本を選んだ。ジェフリー・ディーヴァが積ん読なので今度の本は最後まで読もうと思ったのである。パトリシア・コーンウェルを故・相原真理子さんから引き継いだ方でもある。

『蜜蜂』、堪能しました。マヤ・ルンデは昨年『ブルー』という小説も出しているようなので、『蜜蜂』が売れてくれて次の本も読めることを願っています。

レビューはまだネットギャリーで当分受け付けているようなので、ゲラを読んで感想を書いてみたい方はどうぞ。

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『4コマで丸わかり!素粒子実験の世界』絵が可愛くて楽しい!オススメ!

ヨシダヒロコです。

black mathematics board with formulas

Credit:Adobe Stock, 式がどれだけ合ってるかは責任持てません。

この本は春頃に金沢のよく行く本屋さん(専門書も多いし便利な場所にある)でラッキーにも見つけた本です。今回のはそこそこ初心者向けだと思います。理屈分かる人もマンガ見て楽しいという。てっきりとっくにレビューしたかと思ってました。

「ラッキーにも」と書いたのは、この本が絶版らしいからです。入手した本屋さんではそのように聞きました。店頭に残っていることはあるそうです。近所の天文台の方が、「ニュートリノのことはひっぐすたんの本が分かりやすかった」と言っていたので探していたのです。AmazonではAmazon扱いではないけどまだ取り扱いがありますので、お早めに。あと、普段はつけないんですが「図書館」の選択肢を書誌情報につけました。

著者の秋本さんは素粒子物理を専攻して博士号を持つイラストレーターです。e-honに出版時の書籍情報がありました。

素粒子注目トピックス!!(梶田博士、ノーベル賞受賞!!重力波が見つかった!)
1 素粒子のキホン!(わたしたちは原子の集まり  原子は陽子と中性子と電子でできている! ほか)
2 ものスゴイ!素粒子実験(LHC、ILC ほか)
3 素粒子実験の向かう先(素粒子実験と素粒子理論、素粒子物理学が目指すもの ほか)
出版社・メーカーコメント

なんだか難しそ~なイメージの素粒子実験を 4コマでわかりやす~く解説しちゃいます! ノーベル賞で大注目の「スーパーカミオカンデ」から、ヒッグス粒子で一躍有名になった「LHC」、新顔の重力波望遠鏡「かぐら」まで! 素粒子実験をキャラクター化し、4コママンガで実験の特徴を解説。素粒子って、素粒子実験って、かわいいよね! 楽しいよね!
著者紹介

秋本 祐希 (アキモト ユウキ)
博士(理学)。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。専門は素粒子実験。現在はデザインの仕事をするかたわら、自らが描くイラストを使った素粒子物理学を解説するホームページ『HIGGSTAN(ひっぐすたん)』を開設・運営(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

HiggstanというHPは、割と最近に発見された素粒子の名前が付いていて、素粒子物理をほのぼのマンガやビジュアルで解説しています。TwitterとFacebook版、ブログでも見られます。英語バージョンもあり。わたしはなんでもゆるキャラがいいとは思ってないですけど、この本についてはスーパーカミオカンデちゃんとかぐらさん(髪飾りに注目)の会話とか面白いなあとくすくす受けながら読んでいました。全部意味は分からなくても絵やセリフが楽しいのではないだろうかと思います。XMASSくんなどなど男の子もいます。

スーパーカミオカンデは加速器ともお仕事してるし、そういうお話も出てきます。意外だったのは、加速器って医療材料作ったりするのにも使われるんですね。考えてみればそうですね。日本の東北に誘致しようと今頑張っている(今年が正念場!)国際リニアコライダー、ILCのキャラであるリナコちゃんもこの方が描きました。話が色々進んだら、またこういう本をバーションアップして欲しいなあ。

ニュートリノについて最近の作品は、

あと、スーパーカミオカンデちゃんのタンクオープン。見ることはできませんが綺麗ですね。YouTubeはBGMを含めたリズム感が絶妙です。スーパーカミオカンデのHPでも工事の様子が見られますよ。

http://higgstan.com/4koma-sk-tankopen/

後は余談です。

阪大・橋本先生の『超ひも理論をパパに習ってみた ―天才物理学者・浪速阪教授の70分講義』もマンガ版があるのを知りました。わたしはひも理論には慣れてないけど一応マンガでない本で先に読んでみます。
放送大の試験無事に終わったら積んであるのから順番に、ですけど。

橋本先生が式を書いたこの指輪は500円なので、キーホルダーとして持ったりお友達の坊やたちにあげたりしました(受けた!)。阪大がなんとAmazonで売り出したんですが、人気出すぎたのか在庫がありません。3種類あります。わたしのは塗装がはげてきてしまいました(アップしてすぐの追記:生協で売ってたのより値段は高くなってますが在庫復活してますね。いいなー)

Twitterで、「『我々はみな星の子である』と思えばいがみ合うことも少なくなるだろうに」という意味のことを言っていた方がいるのですが出典を知りません。そのうち調べることにして、今年まで京大におられた磯部先生の文章を引いておきます。長めですけど中学生対象です。

宇宙がいつか滅びるならなぜ進歩する意味があるのか

『暗黒物質とは何か――宇宙創成の謎に挑む』(幻冬舎新書)レビュー。

ヨシダヒロコです。

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Galaxy Abell 1689’s “Gravitational Lens” Magnifies Light of Distant Galaxies: 重力レンズといえばかみのけ座銀河団が有名だそうだが、これはエイベル1689という巨大な銀河団。

この本てっきりレビューしたと思っていました。著者の鈴木洋一郎先生は、今は東大のカブリ数物連携宇宙研究機構に在籍、その前は暗黒物質探索装置・XMASSの実験代表者、宇宙線研究所所長だったこともある方です。いろいろな受賞歴もあります。太陽ニュートリノの研究で業績を上げた方です。

富山には縁がある方で、神岡で研究されてましたし、サイエンスカフェとやまのゲストには2回(栄えある第1回。暗黒物質(ダークマター)特集には行けなかったのですけど)、放送大学富山学習センターでは後期に面接授業(スクーリング)をされてます。授業では2日間物理どっぷりなので、多少勉強してても身体が付いてかないところがありますが、何回もお話聞くうちに段々いろんなことが理解できてきました。面接授業は別に感想を書いてあります。

去年秋の授業の時にこの本を持っている受講生さんがいて、ノーチェックだったためすぐ買って冬に読んでみました。授業で説明されたカミオカンデ→スーパーカミオカンデの実験のことや、ニュートリノ振動とはどういうことかとか、ダークマターのこととか書いてあります。ダークマターの話がほとんどです。読んで「なるほどそういうことだったのか」というのがありました。「装置は複数のテーマに対応するよう作られている」というのは知りませんでした。

ただ出版は2013年なので、最新の話ではありません。毎年の授業で聞くつもりです(去年はやはり重力波がちらほら話に出ました)。本の中のダークマターでその後決着が付いたことがあったり、XMASSにもいろんな運命が待っていたりして、まだ最終的にどうなるかは分かりません。基礎を知るにはとても良い本だと思います。授業で「いやあ……」みたいになってあまり答えてもらえなかった先生のライフヒストリーも最後の章にあります。白黒ながらも図表や写真が結構あります。

本屋サイトを見ると在庫僅少なところが多いのは、何かあったんでしょうか?

ダークマターを扱っている一般書は、知る限りあとは科学雑誌の特集とかなので、一般向け新書としては貴重です。見つかると大ごとなので、新しい発見がときどきネットニュースにもなっています。

宇宙線研究所の主だった方の本は、あと梶田先生の一般書を今読んでいるところです(語り口が気に入りました)。わたしは地元富山が神岡に近く恵まれているとも言えますが、前記事の名古屋のように市民向け講演会がある場合もあり、これは研究者サイドでも一般市民に研究内容を知ってもらえるようという気持ちの表れだろうかと思います。

ちなみに、富山市天文台ではニュートリノ振動の受賞以降、子供たちの質問がすごく増えたそうです。昨今日本の競争力が落ちたと言われていますが、少し明るい話ですね。

 

 

頷くばかりだった『翻訳とは何か――職業としての翻訳』。

ヨシダヒロコです。

 

2018-05-13 00_Fotor

この本は2ヶ月ほど前に読み終わっていました。買ったのは2年は前で積ん読でした。山岡先生のこの本は有名で翻訳者は読んでいて当たり前なのですけど、このところ翻訳関係の本や雑誌を多少読み、実務系(先生は出版も訳されましたが)ではこれが一番心に残りました。訳し方指南の本はまた別に評価しています。今回、この本をレビューするのに緊張し、逡巡し、取りかかるまでに時間もだいぶかかっています。

この本は翻訳のハウツーというよりは翻訳の歴史、翻訳論にページを割き、翻訳市場の現状(当時)、翻訳者という仕事についての考えも書いてあります。「こういう心構えで翻訳をするように」というお叱りを受けているような厳しい印象も受けます。「お叱り」は悪いニュアンスではなく、わたしは意味なく声を荒げる人は大嫌いですけど、山岡先生が嘆きたくなる風潮がわたしには何となく分かります。この本が出たのは2001年ですが、既に「簡単に翻訳者になれる」というような宣伝文句が出ていたはずです。

もちろん、教える側の先生方もこの本は読んでいるはずですし、わたしにもキャリアアップのため翻訳学校で是非教わりたい方は複数おられます。単に先生を選べばいいのだと思いますが、それをほとんどの初心者がしないことが残念だとおっしゃりたいのでしょう。別のところ(下のリンク)でそういう発言があります。

冒頭からの翻訳論のパートはついどんどん読んでしまいました。玄奘法師(三遊記の)をはじめ、命がけで翻訳に当たった先人たちが登場します。P74にあるような数学書の翻訳については放送大の『数学の歴史』にあったと思います。今放送大院で去年開講した『異言語との出会い』を学習し始めたばかりです。特に英語との音韻の違いから始まって、異言語との文法の違いや異言語との接点、翻訳(2章分)にも言及する科目で、もっと進んだら独立にエントリを上げます。山岡先生の本にもそのような香りがするパートがあります。

わたしは翻訳分野の背景知識をつけることを重視してきましたが、それだけでは良くないと思い、せっかく多言語やっているんだから言葉そのものについてもっと知りたいと思い始めていました。山岡先生の本を読んだのはそういう意味でちょうどタイミングが良かったのです。昔の翻訳フォーラムにいらっしゃったと最近知りました(会議室がわたしと違ったのでしょう)。故人なので、その当時お話しできなかったことが残念です。先生の作られた辞書は使っていて、EPWING形式で見出しが存在するらしいと知ったばかりです。是非入手したいです。

インタビューがありまして、こちらをどうぞ。これ一度読んでから本を読んでみたかったんです。この時期(2000年)から状況が変わってないというか悪くなってる気がします。

山岡洋一が怒る   翻訳は簡単な仕事じゃないんだ

下のURLには、もう1本山岡先生のインタビューと、『翻訳の世界』元編集長のインタビューと、昔からの知り合いを含む翻訳者さんたちの紹介があります。

http://kato.gr.jp/

インタビュー中にある『翻訳通信』はこちら。

http://www.honyaku-tsushin.net/

辞書はこちらです。金融用語やビジネス系に強いです。

経済金融・証券会計訳語辞典
https://www.dictjuggler.net/ecostock/?error=1

数は多くなくていいから、大事に読み返せるこの手の本を増やしたいと思っています。

『薬理学の基本がわかる 薬が効くしくみ』(気づいたら絶版)。

ヨシダヒロコです。

2018-05-04 12_Fotor

たけのこご飯、まだ沢山あります。

連休はまた寒くなり、まだ仕舞ってなかったファンヒーターが役だちました。これは毎年のことですが、開通したばかりの立山黒部アルペンルートも吹雪だったし。風邪引いてふらふらしながら、4連休に間に合って届いたトライアルを訳していました(風邪は大体完治)。もう1社はとても窓口の方の感じが良く、履歴書をすぐに見られなくてごめんなさいとメールを頂きました。身内が来て、そのうち甥がひとりさっきまでいました。

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この本、ご紹介するのが遅れてしまって。3年前に買い、去年再開して冬頃に1回読み終わり、あとは中断する前の理論の部分をもう30分読んだら復習も終わります。今気づいたらなんと絶版になっていました。古本ではまだあるし、有名な『よく分かる薬理学の基本としくみ』(秀和システム)などよりもう少し難しく実務寄りです。本当に翻訳者が詳しいことを知るには、もう一段難しい本がいる気がしますけど。

わたしも大学学部生が読むような本を買って厚さにめげて失敗したことあります。この本は絵も多く見開きで完結するよう工夫してあって、すき間時間に勉強ができます。後ろのパートでは具体的な薬の名前を挙げて、○○病にはこういう薬を使いますと効くメカニズムと共に教えてくれます。絶版はすごく残念です。新版出てくれないかなあ。

余談ですが、読書が終わりに近づいた頃はペットの故フェレットの容態が悪くなっており、ここで読んだ人間の身体のしくみが応用できたこともありました。

写真に一緒に写っている解剖学の本は一緒に買いました。一応全部目を通そうと思いまだ終わっていません。解剖学もちゃんとした本を買うと高いのですけど、両方お手頃でした。あわせて読むといいかもしれません。改めてレビューします。

長らく積ん読の『朝日新聞校閲センター長が絶対に見逃さない間違えやすい日本語』レビュー。

ヨシダヒロコです。

わたしが普段使わない「自慢」という言葉をわざわざ使いますが、『校閲ガール』はドラマになる前に目ざとく見つけて大好きになりました。本を買ったころに訳は忘れたけど校閲に興味を持っていて(今もですけど)、一緒にAmazonのサジェストで朝日のこの本を知ったのだと思います。長らく積ん読でしたが、冬頃にペットの看病をしつつ獣医さんの待ち合わせなどで本を開き読み終えました。

間違った言葉遣いを読みやすく教えてくれる本で、ようやくご紹介できます。新入学・就職などのシーズンに当たっているため遅れてちょうど良かったかもしれません。文章の書き方講座もあります。

『校閲ガール』は昔ブログを書きました。今は続編2冊が出ていて是非レビューしたいです。下に貼ったのは文庫本も出ています。ドラマも合わせてお薦めです。

ひたすら楽しいエンタメ『校閲ガール』。

翻訳者は(「翻訳家」は訳書を何冊も出してる人で、わたしみたいな実務系の人は「翻訳者」といいます)語学力があればなれると勘違いしている人が多く、「外国暮らしの経験があれば」「留学してれば」という話になることはありますが、大事なものが抜けています。そう、日本語。わたしは20代の頃に県の研修を受けてボランティアで2年ほど日本語教師をやりました。「こそあど」とか「は」と「が」の違いを外国語として眺めたときに説明できない自分がいました。当時もう翻訳を視野に入れていたため、そもそも自分の母語を理解していないことに気がつきました。日本語は勤め人や学生同様、翻訳者にもとても大切なことを知ったのでした。

わたしは普段なるたけ本を本屋さんで買っていますが、品揃えはネットが勝っているので(近くにそんな大きな本屋さんがない)注文かける際にAmazonの「なか見!検索」は嬉しいですね。見ると分かる通り、○×やクイズ形式で間違った日本語を解説してくれていて、レイアウトもほっこりする絵が入っていて読みやすいです。わたしも間違えたものが少ないとは言えなかったので、自分でスキャンして電子データにしたい!と思ったくらいでした。

四字熟語の漢文のうんちくはなかなかお役立ちで、例えば「朝令暮改、朝礼令改」(p106)のウンチクを引用すると、

前漢の文帝の頃、商人や地主の力が強くなり、農民が疲弊していました。そうした状況を臣下の晁錯(ちょうそ)が文帝に上奏しました。その内容が班固の「漢書」食貨志(しょっかし)に記されています。食貨志は「食」と「貨幣」にまつわる話をまとめた、いわゆる経済報告書のようなものです。

勤苦此(かく)の如くなるに、

尚復(なおまた)水旱(すいかん)の災被(あ)り

急政暴賦(きゅうせいぼうふ)

賦瞼(ふれん)時ならず

朝(あした)に令して而(しか)も暮改む

「農民の生活はこのように苦しいのに、水害や干ばつに見舞われ、苛酷で暴力的な政治に虐げられ、急に租税をかけられ、朝に出された命令が夕方には改められる」と農民が翻弄されている様子を報告しています。その中に「朝令暮改」が書かれているのです。

という感じで、かなり読み応えがあります。間違って使う人、自分含めて沢山いそうだと読み進めるうちに思ったのでした。

各章末には、著者の教えていたカルチャーセンターの添削でこんな風に直しました、という実際の例が出てきます。わたしは今まで接続の意味で「が」を使う人でしたが、これを読んでからできるだけやめています。

著者の前田さん、朝日校閲センターの本には文章書き方の本も含めるとこんなものがあります。朝日からはこの他にもあり多いです。すぐ下の本は、「マジで書けない」人がAmazonレビューで怒っている模様。

朝日系ということでは、昔これを参考にしました。翻訳者の間では定番です。ほかに中公新書でいいのでしょうか、『理科系の作文技術』もあります(未読)。

毎日からも出ています。他の新聞社は探しましたが辞典で小学館があるのみだったかと思います。記者ハンドブックみたいのは色々出てます。

意味がすっきり通る美しい文章を書くことは、翻訳者の目標だと思います。日本語に訳すときも、その反対でも、気をつけていないと外国語に引っ張られて滑らかになってくれないのです。そんな訳で日本語(書き方・文法諸々)が大事なのよく分かっているので、こういう本も読んで適宜アップしますね。

和む本(6)と今さら2018年カレンダー、すべて星関係。

ヨシダヒロコです。

車だろうが電車(第三セクター)だろうがまともに走ってくれず、こんなの小学校以来のことなのでびっくりの冬でした。北陸の人はこれで完全に春になるとは思わずまだ警戒していると思います。なので、富山市の本屋で取り置きしてもらったカレンダーが2月下旬まで買いに行けず。

まあ、お金持って富山市に行って、別の本を買ったこともあるからわたしも悪いんですけど。

このカレンダーは天文系の検定用で、暦の部分は星の運行などがこまこま書いてあります。写真はとても美しく、3月はもう消えていきつつある冬の星座オリオンです。ただおばちゃんのわたしが近くを見る用の眼鏡で見上げると全然字が見えず、写真も値段高くしてもいいからもう少しサイズが欲しかったかな。これは寝る前の和み用です。検定については今のところあまり考えてません。

仕事部屋にはNewtonの11月号付録を貼っています。ハッブルがとらえた”Mystic Mountain”とのことです(わたしの写真、綺麗に撮れてないですが)。上と同じく装飾的に使っています。在庫がなくなるのがすぐなので、Newtonは昨年末からFujisankei経由で定期購読していますが、沢山読むのはなかなか難しく、日経サイエンスも読みたいなーと思うのに追いつきません。このカレンダーについては付録つき中古はもうないかも。

IMG_8782_Fotor

実務的なものは、この間3月からのものが届いたGE Healthcareの卓上カレンダーです。めくるの忘れるくらい最近見てないですけど、手近にあると便利です。応募は研究者ではなく翻訳者と書いても通ります。過去ログに書きました。

写真集的な本と、写真集が続きます。

Amazonだったかでお薦めされたものを覚えておいて、本屋さんに注文かけたのを年末に買いました。綺麗な星の写真と豆知識が書いてあります。知らなかったこともありました。

この写真集は見ての通り2016年刊で、第3写真集が2017年末に出ています。処女写真集については前に告知のみ書いていると思います。こんなすごいのは撮れそうにないですが、KAGAYAさんはホタルイカの時期にうちの県にも来ています。撮影条件も書いてありますので、頑張ればホタルイカ撮れますかね?

確か『趣味の園芸』バックナンバーも買ってきた覚えがあるので、またお花の写真でもぬくぬくしながら見ることにします。

『ゲノム編集とは何か 「DNAのメス」クリスパーの衝撃』読了。

ヨシダヒロコです。

Hand inserts a molecule into DNA.

Credit : Adobe Stock

これは翻訳祭で言及したうち最後のレビューです。あの時点では真ん中より後ろを読んでいました。年内に読了しており、2018年1月早々にレビューするつもりでしたがいろいろあって遅れました。仲野先生の病理学本のおまけがありますが、4月にずれ込むでしょう。

『ゲノム編集の衝撃』と比べてこの本の特徴を一言で言えば、前者は入門書なのに対しこちらはよりディープかつ詳細であること、人工知能やクラウド・コンピューティングとの組み合わせでゲノム解析を加速化することが書かれています。ITへの言及は前者にはありませんでした。難病が治るかもという使い方もできれば、SFのようなことも可能になるかもしれません。そういう意味で、実現するようなことがあればわたしでさえ恐ろしいと思うような話もありました。すでにAndroidもGmailもアマゾンも使ってますけれど。

著者の小林雅一氏は東大理学部物理学科卒、ボストン大でマスコミ論を専攻、雑誌や新聞社での勤務経験があり、慶應メディア・コミュニケーション研究所などで教鞭、現在KDDI総研リサーチフェロー、情報セキュリティ大学院大学客員准教授。専門は先端技術(IT、ライフサイエンスなど)の動向調査ということです。ずっと大学にいた方ではなく、民間経験も豊富な方がご自分の得意な分野で書かれた本という印象です。

目次を書き写しておきます。

1章 「人類の寿命は500歳まで延びる」は本当か――ゲノム編集「クリスパー」の衝撃

2章 解明されてきた人間の「病気」「能力」「特徴」――パーソナル・ゲノムの時代

3章 ゲノム編集の歴史と熾烈な特許争いの舞台裏――誰が「世紀の発明」を成し遂げたのか

4章 私たち人類は神になる準備ができているか――グーグルとアマゾンの戦略

2章に分子生物学の説明もあるのですが、初学者や勉強中の人に親切とは言えない気がします。図もその部分を除けば少ないので、すでに生物や分子生物学の知識が多少ある人、ITにもひどいアレルギーがない人に適しているように思います。

1987年、大阪大学微生物病研究所の石野良純氏(現・九州大学教授)が発表した論文中で、大腸菌DNA内に奇妙な塩基配列が発見されました。それから四半世紀、これをベースにクリスパー・キャス9が作られました。メスのようにDNAをピンポイントで切断、遺伝子組換えにはるかに勝ります。分子生物学の基礎さえあれば誰でも扱え、そして早いのです。

問題点はオフ・ターゲット効果で、狙ってない場所で切れてしまいます。

中国で行われたヒト受精卵のゲノム編集について(2015)、デザイナーベビーの問題について。どこまでが医療でどこからがそうでない目的なのか、境界線をどう引くかは難しい問題です。生まれてくる我が子の知的障害をゲノム編集で治療する場合、ナチスが行ったような優性学を思い出させるなど、倫理面での議論が豊富と感じました。

クリスパーは特許を争っていますが、群がる大企業や動く金が生々しい(企業名が出ている)様子です。

2章は上に書いたように分子生物学の説明がありますが、初めての人がいきなり読んでもたぶん分からないでしょう。ゲノムワイドなど、ゲノムから病気の原因となる遺伝子を発見する試みが書かれています。

前に紹介した『ゲノム編集の衝撃』はアメリカのチャン氏しか取材していなかったのですが、本書では特許争いのもう一方であるアメリカのダウドナ氏とフランスのシャルパンティエ氏についても3章でバックグラウンドを書いています。「ノマド科学者」だった、と書かれているシャルパンティエ氏のヒストリーは興味深かったです。

ところで先日、豚の体内でヒトの臓器を作るという驚くような研究があってネットでも議論されました。カズオ・イシグロの小説みたいだと。

多少似た話がこの本にもありました。豚とヒトは臓器のサイズが似ているのでいます。臓器移植を目的として、移植した場合感染してまずいことになってしまう豚のレトロウイルスを発現する遺伝子を62個もゲノム編集で改変したという話です。1型糖尿病患者に豚すい臓の一部を移植することは外国で行われており、日本でも2016年にヒトと豚など異種移植の実施を許可しました。ちなみに1型糖尿病は遺伝性。他の遺伝性疾患、難病も遺伝子治療の歴史があります。

気持ち悪いとか言う人の気持ちもそうだろうとは思うのですが(生理的に気味が悪いという感情は周りからはどうすることもできない)、喉から手が出るほど臓器が必要なことに生まれながらなっている人の気持ちは、中年になって実は長患いが遺伝病だったらしいと分かってしまったわたしには何となく分かります。健康だと分からないでしょうね。ちなみに、昨夏金沢であって行ってきたCiRA(iPS細胞研究所)のサイエンスカフェで聞きましたが、糖尿病で一度にダメになるというすい臓・肝臓・腎臓の移植率は待ってても各1桁(%)です。

ここまで書いてきて何ですが、ゲノム編集はすでにこれから学ぶ人にとってはすでに「遅れて」いるそうです。ツイート中にあるURLトップページでもう記事はそこにはないため、改めてリンクを貼り直しました。だから分子生物学は進歩が早いと翻訳祭でも言ったのです。

ゲノム編集技術「CRISPR」は、もう古い? すでに研究は「次世代」へと向かっている

魚拓

今までの技術を知るためには、倫理面も分かる本書はコスパも良く最適ですが、入門書ではないことに注意して読んでもらえたらと思います。

第4回日本翻訳大賞読者推薦作品投票(2018/01/20~31)(2018/02/05推薦文追記)。

ヨシダヒロコです。

translationaward

放送大の試験他でとっ散らかっていて、やっと投票する気力が出ました。こちらに書くのが遅くなりましたが、明日までです。

https://besttranslationaward.wordpress.com/

わたしの推薦文に問題がなければ、あとで貼り付けます。候補作には条件がありますので、HPをご覧ください。匿名での投票もできます。

(2018/02/05 4:18追記:今見たら推薦文が全部出ていました。バラエティに富んでいます。自然科学や医学その他の翻訳書を薦める人が出て欲しいです。去年『重力波は歌う』を読んで推薦しておくべきだった……去年、小説などは全然手が回りませんでした)

【推薦者】吉田 博子
【推薦作品】『遺伝子は、変えられる。――あなたの人生を根本から変えるエピジェネティクスの真実』
【作者】シャロン・モアレム
【訳者】中里京子
【推薦文】
医学・分子生物学分野で熱いエピジェネティクスを、豊富な患者の例(プライバシー配慮済み)と著者の広い興味範囲で巧みに結びつけ、難しい概念のハードルを下げた本。DNAの塩基配列はそのままでも、外的なきっかけなどで遺伝子がオン/オフになる不思議な現象で、親から引き継いだ遺伝子がすべてではないことを説明してくれる。ただ、ものによっては経験したことが子孫に遺伝するケースもある。エピソードが面白くて、ダビデ像は石の性質からかかとが弱くて修復をよくするというトリビアから人間のかかとの話に持っていったりして全体でエピソードが集まってひとつの「お話」のよう。読みやすく訳した翻訳家さんにも敬意を表したい。とかく難しいといわれる医学などの分野でもっとこういうポピュラーサイエンスの好著が出て欲しい。

 

左巻先生ご夫妻の検定外教科書『大人のやりなおし中学生物 木と草の違いはどこにあるの?ごはんをかむとなぜ甘くなる?』読了。

ヨシダヒロコです。

翻訳祭で話した本のうちでラストから2冊目。実はこれが易しそうに見えてなかなかどうしていい意味で期待を裏切りました。初学者の場合レイアウトも大事だと思っています。この本は手書きイラスト、色つきの部分、文字の配分が良く、好感が持てました。

わざわざ「左巻先生の」と断ったのは、理科教育やニセ科学批判問題で有名な方だからです。ニセ科学とは科学に見えてそうでないものを指し、例を挙げれば「水にきれいな言葉をかけたらきれいな結晶を作る」みたいなものです。ご夫妻で教育現場に長年おられて、著書も沢山ありますがこれが初めて読む本になりました。下に挙げる「高校生物」の化学版(左巻先生著)はレファレンスとして秋に買いました。

中学生物だけでなく、高校生物の検定外教科書もあります。著者からいって間違いないのでそのうち揃えておきたいのですが。

共著者は北大理学部の教授をされていた栃内先生。ブログつながりが長く、今はよくTwitterを拝見している先生です。『進化から見た病気――「ダーウィン医学」のすすめ』(ブログ掲載時に題名間違ってました、すいません!)は2009年出版時に読んでブログにレビュー(リンク)があります。

 

「中学理科」は題名にあるとおり、大人が生物をやりなおす場面になったときのための検定外教科書です。1章30分で読めるように書いたとあり、確かに読みやすいです。Amazonにページの画像があります。検定外のため、文科省の指導要綱には従ってない部分があり、元塾講師・家庭教師として思うにはDNAのあたりがかなり突っ込んであるのがそうでしょうか。最近は知りませんが、中学校ではほとんどやらないのではないでしょうか。

読者対象はこんな人々。P3より、

1.仕事や学業で生物の基礎を短時間で学び直したい大人。

2.中学生物を短時間で復習したい中学生、高校生。

3.中学生物の全体を知るために予習したい中学生。

このうち、1.の人がメインだそうです。受験準備にもいいと思います。

さらに目次をあげておきます。

第1章 植物の体のつくりと働き・暮らし

第2章 植物の仲間とその歴史

第3章 動物の暮らしと体のつくり

第4章 動物の仲間とその歴史

第5章 生物の細胞と発生

第6章 生物の遺伝

第7章 生物どうしのつながり

第8章 生物の進化

第9章 生物の歴史

第10章 人類の成り立ち

4択ミニテストが随所にはさんであり、簡単そうに見えて意外に間違えてしまうのですが、理解度を確認できます。とはいっても基本的に読み物なので、見開きなどでコラムがあって「へええ」「ほー」という内容で読みでがあります。これだけ内容があって、もし読者が理解できたら簡単にニセ科学にもだまされないのでは?と思うくらい。

わたしは前半を読んでいて、「ああこんな話子供の頃に大好きだったなあ」と思い、分子生物学のところは一応確認のために読み、「遺伝子組み替え」のコラムを頷きつつ読み(知らないことがあった)、最後の方で、太古の昔にあった植物や恐竜の絵や描写があるので、今そういう生き物が生きていたらどんなだったかなと想像したりしました。

字はまあありますが、新書サイズで小さいのでどこにでも持っていって読めます。生物はとても範囲が広いと放送大学の院で授業を取ったときに教わりました。この本は「中学」と付いてはいても、今の時代を生きていくのに最低限必要な知識を楽しく読書してつけられる本だと思います。

「理系のハナシは難しいと思っていませんか?実は中学レベルの約束事を知っていれば、内容の多くを理解できます」(裏表紙より)。