ヨシダヒロコです。
春の蘭まつりの告知を駅で見つけたので、本当はそんな場合じゃなかったんですが、ちらっと行ってきました。特に(去年発表された)青いコチョウランと、即売会が楽しみで。

入場口で、こんな花が迎えてくれました。

行ってみるとかなり沢山人がいて、らん展の展覧会(受賞者発表)と即売会をやっていました。時間があまりなかったので、即売会を冷やかして、一目惚れしたランがあったので後で考えることにして、講義に向かいました。
三位正洋千葉大名誉教授(園芸学部)のお話でした。花の改良がお好きなのはよく分かったのですが、わたしと同じく脱線しやすい方のようで、大事な青いコチョウランと青いダリアの話になる頃には1時間が過ぎていて、特に青いダリアはメモっている暇がなかったです(笑)。千葉大から名古屋大院に進み、千葉大で長く教鞭をとられ、退官したばかりです。園芸育種学、つまり品種改良などがご専門です。
著書にはこういうものがあります。
わたしはいわゆる「青い花」を作る話は好物です。夢がありますし、青が好きだからというのもあります。青といえばサントリーのバラ「アプローズ」などが有名ですし、Facebookで青いチューリップを(正確には白と青)みたこともあります。バラはまだ紫に見えましたが、チューリップは「青」でした。このコチョウランについては、下でわたしが撮った写真を出します。
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花の品種改良はなぜするかというと、花はすぐ飽きられるから。(たしかに、花市場の動きなど見ていると、常に新品種が出てますね)。品種改良の大変なところは、花を研究しようとすると、1つ1つを研究している人が少ないので、何でも自分でやる羽目になること、だそうです。
限界を超えるには、
1.放射線照射(X線、ガンマ線、重イオンビームなど)、化学薬剤で変異を起こす
2.染色体数を変える、倍数体、異数体を作る(コルヒチンで種なしぶどうができたことなどが例)
3.他種から遺伝子を取り入れる
なのですが、
品種改良の方法として
1.種族間雑種、受精させて繁殖させる(例:米国原産で日本で育種が進んだトルコキキョウなど)
2.細胞融合
3.遺伝子組換え、本体の性質は変えずに目的遺伝子だけ導入
結局いずれも3の方法で成功したのですが、膨大な実験を繰り返したそうで、沢山他の植物での失敗例を含むスライドを見ました。
「種子を制するものは世界を制する」といわれ、優れた品種は世界的商品となるそうです。日本は育種能力が高いので、育種立国を目指すべきとも。
ところで、「遺伝資源」という考えがあります。絶滅危惧種、希少植物、海外の植物を挿し木、組織培養などし、-196℃の液体窒素で半永久的に保存できます(話が行ったり来たりしていてまとめにくいのです(^_^;))。
話を元に戻すと、バイオテクノロジーには次のようなものがあります。
1.組織培養(植物のどこからでも作れ、脱分化してカルスを作る。たんぽぽを引っこ抜くと再生するのが例)
2.胚培養(受精後死んでしまう胚を救う)、種間雑種(重要な作物は種間雑種起源である)
3.細胞融合
4.遺伝子組換え
今は便利な時代で、遺伝子の類縁関係を探せるそうです。近いほど、交配は成功しやすいです。インターネットでドイツの園芸家から「花粉下さい」と分けてもらえたりするらしいです。
例1)チョコレートコスモス×キバナコスモス
イギリスのキューガーデンによると、チョコレートコスモスは1種しかなく、普通のコスモスと塩基配列が1箇所だけ違います(DNAのようなもの)。キバナコスモスを掛け合わせたところ、チョコレートコスモスでも暑さと病気に強いものができました。わたしも分からないんですけど、チョコレートコスモスにはチョコレートの香りがあるともいわれています。
例2)リュウキュウベンケイ(絶滅危惧種)×カランコエ
背が高い、切り花用の水がなくてもしおれないものができました。ベンケイソウは多肉質なので。飛行機のビジネスクラスに飾るという話が進行中だそうです。
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ここからランの話。
その魅力は、
1.多様な種、2~3万
2.花形、色、香りが多様
3.植物体の形が多様
4.生理生態が多様
5.高級なイメージ(世界共通、ヨーロッパでは広まっているところ、開発の中心は確か台湾に移っている)
他の植物より子孫を残せる(種が多いから)、なので優れた固体を選べるが、両親は超えられない。ということで「望まれる品種とは」というスライドがあったのですが、栽培のし易さ、経費など色々あり、その中に「花色」が。青いものが欲しいのは「ないものねだり」であって、これが育種の基本なようですね。
さて、青い花の作出にはデルフィニジンという色素がいるようです。他のブログで調べたところ、青い椿やバラでもこれが必要なようです。多分これが自分が見た化学式だと思うのですが。画像お借りしたブログのリンクを張っておきます。

北摂通信~ 写真も入った気ままな日記 より 青系ツバキの花蕾 青い椿を作っていらっしゃるようですね。わたしのブラウザでは表示が崩れるのですが。
話を戻します。ランのバンダという種には青いものがありますが、交配が難しいそうです。F3’5’Hという遺伝子が上の化学式のデルフィニジンの前に働かないと、デルフィニジンが作れません。
遺伝子組換えの他の方法も試しました。細胞融合では、プロトプラストといわれるものから植物体ができるはずなのですが、成長が遅く10年後に枯死しました。というわけで遺伝子組換えになったわけです。
目的遺伝子を短い遺伝子からなるベクターというものに組み込みます。それが細胞内に入ると、細胞を選んで再生します。問題は細胞壁がしっかりしているので入りにくいことで、遺伝子銃というものがあり、金粒子の周りに目的のものをまぶします。他に、エレクトロポレーション(電子的に穴を開ける)、アグロバクテリウム(土壌細菌で、遺伝子を送り込む)などの方法があります。遺伝子組換えには許可が必要なものが多いらしいのですが、バクテリアには許可が要らないので手間が省けます。
遺伝子の「ここから始まるよー」というプロモーターと「ここで終わるよー」というターミネーターの間に目的遺伝子を組み込みます。(遺伝子には無駄な部分が結構あります)
青い花の例としては、青いバラ(先ほど書いたサントリーの商品、パンジーの遺伝子を使っている。キメラで子供ができない)、紫のカーネーション(ペチュニアの遺伝子)、青紫のキク(サントリー、野生種に似たようなものもあり、あまり宣伝できず。サントリーには他にも宣伝しにくい製品あり)、青いユリ(サントリー、失敗)などです。
それで、青いコチョウランに使ったのは、ツユクサの遺伝子。他にもやってみたが、結局1つだけ使ったそうです。
組換えの元の植物には、「ウェディング・プロムナード」という品種を使いました。

FT遺伝子と呼ばれる、花芽分化誘導遺伝子(早く花が咲く)も使ってみたのですが失敗、結局FT遺伝子を使わず成長を待っていた花が平成12年2月15日に花を付けました。最初の花は奇形でしたが、あとで正常なものが咲きました。
今後の目標としては、デンドロビウム、シンビジウム、カトレアを青く、バンダ(青い花がある)を低温に強くすること。青いダリアは駆け足で良く覚えてません。が、綺麗な花でした。青いランは色々なところで披露される予定があり、もしかしたらイギリスにも行くかもしれません。コチョウランについては、花粉ができる品種を作ることが目標で、まだ始まったばかりだそうです。
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ここで、そのコチョウランの写真です。遺伝子組換えの花ということで、花粉はないので飛ばないのですが決まり上、頑丈にケースで守られています。



ここから講演が終わったのでラン展です。あまりうまい写真が撮れなかったので、何枚かだけ。確か、4~6枚目は受賞作です。







即売会ではこんな風に可愛い小さなカトレアが売っていたりしましたが、結局ちょっと野生っぽいこれ(下の写真)にしました。これでもデンドロビウムらしいです。デンドロビウム・キンギアナム・シルコッキーといいます。崖にくっついていたようなランなので、水は乾いたときに霧吹きで吹き、5~11月までは木の下に吊しておいて下さい、だそうです。

次のラン展は、去年の例を考えたら多分5月ではないでしょうか。まだよく分かりません。
(3/5追記:わたしの買ったデンドロビウムは原種らしく、ここで買えます)