五感で感じる化学(4)—モルって何?(追記あり)

ヨシダヒロコです。

前回はサイエンス界の大問題を取り上げてかなり脱線してしまったので、今回は普通に行きます。前の前に予告した通り「モルって何?」です。

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この概念は高校化学の教科書では最初の方にあるのですが、わたし自身思い切りつまずいたというか。実はこれが分からないとその先かなりの部分が分からなくなってしまいます。自分がどうしたかというと、地道に教科書を読んで問題を解いて(計算です)、多分下のビデオにあるようなことを何となく理解したのだと思います。

アボガドロ数というマジックナンバーがあります。すごく桁の大きい数ですが、これがひとかたまりになっている、例えば「ダース」や「カートン」のような概念と考えてください、ということをどっちの動画でも言っています。

アボガドロ数の語源であるアボガドロという人は(ファーストネームはアメデオですが貴族なので本当の名前は長い)化学では超有名人で、トリノ出身のイタリア人です。次回どういう人だったのかを少し書きます。ここに写真が出ていますね。

The-Mole-2015

pdf欲しい方はこちらから。

http://www.compoundchem.com/wp-content/uploads/2014/10/The-Mole-2015.pdf

下の動画2つのうち、最初のスピーカーはプレゼンサイトTEDでも有名な人のようです。2つめは出所がはっきりしないですがイギリス発のようで、ものの例えに出してくるお菓子の違いが面白いです。

(TEDサイト https://www.ted.com/speakers/tyler_dewitt

この2つの動画では「モルとは原子のひとかたまり、その数を表すのがアボガドロ数。桁が大きいので10を23回かけたのは右上にまとめて書いてある」とあります。次回書こうと思っている周期表にも関係あるのですが、周期表にある数字は飾りではなくて、例えば「すいへーりーべ、ぼくの船」で6番元素である炭素には周期表で12と書いてあり、1モルが12gです。塩化水素(水に溶かすと塩酸になる=HCl)は1モルの質量がH=1.0、Cl=35.5なのでHCl=36.5gです。基本の基本はこんな感じです。なお、この1モルの質量(重さをきちんと表す言葉)は、教科書のもっと前で習う分子量と同じです。

また、「標準状態」と言われる状態があり、0℃、1気圧を指します。この状態で気体である物質は1モルの体積が皆22.4Lになります。この”L”はライフサイエンス分野では大文字になっていることが多いようですが、化学の教科書では小文字です。(2020/09/08訂正:現在では化学でも大文字です)。見やすくするために大文字にしました。

探したらこういう画像があったので、22.4Lがどれほどの大きさかお分かりでしょうか。

Un_mol_de_gas_ocupa_un_volumen_de_22.4_L

Description Español: Un mol de cualquier gas en condiciones normales de presión y temperatura tiene un volumen de 22.4 L
Date 26 October 2015
Source Own work
Author Viviana Rosalía Tello Mendoza

(スペイン語タイトル訳:標準気圧と温度にある気体1モルは22.4L

またモルに関連して、モル濃度(mol/l)という用語を翻訳者の方はよく見かけるかもしれません。モル数を水1Lとかで割ってあげればいいです。他に、化学反応式(たとえば2H2+02→2H2O)で表されるような化学反応はモルを理解しているととても分かりやすいです。

今書いたような話を英語で読んでみたい人、カリフォルニア大デイヴィス校が教育目的でこんなテキスト出しています。他の部分も基礎の確認に使えそうですね。

https://chem.libretexts.org/Textbook_Maps/Introductory_Chemistry_Textbook_Maps/Map%3A_Introductory_Chemistry_%28CK-12%29/10%3A_The_Mole/10.06%3A_Avogadro%27s_Hypothesis_and_Molar_Volume

思い切り簡単なものがいいという方、にはこれ。ブルーバックスは他にもマンガを出しています。この「モル」の本は結構使えるのでは。計算がセリフで沢山出てきますが、手を動かして計算するのも大事です。他に違う漫画家さんで「化学史」の本もあります。

次回は「周期表、原子、分子とは?その1」です。

おまけです。

イタリアの動画で、タイトルは「うちでできるすごい実験8つ」。画面のセンスがいいので、ゆるーく見ていただければ。それはうちではなくてバカンス先では?ってのも混じってます。YouTuber 2人による作品らしいです。監修の方によるとうちでできない危険な実験が混じっているとのことで要注意だそうです。

監修:原典行(元東京工業大学大学院 物質科学専攻助教)

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五感で感じる化学(3)――【番外編1】アカハラとブラック研究室が消え去る日はいつ?

classmate.jpg

Photo: Classmates ironypoisoning via Visual hunt /  CC BY-SA

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ヨシダヒロコです。

この連載は、本来化学の基礎を分かりやすくというものです。今回は、本当はラストに持ってこようと思っていたサイエンス界隈の問題2つのうち、予定を変更して化学のみならず、実験系の理系に特に多い問題を取り上げます。春先でちょうど人が動く時期ですし、まだ寒い頃にこんな署名集めが始まったからです。2017/04/02現在、当初の目的500名を達成して1000名を集め国に持っていこうとしています。

文部科学省と各大学にアカデミックハラスメント対策を徹底し,被害者の保護とケアを最優先するよう求めます

(2019/10/30追記:遅ればせながらリンクを削除します。署名を集めていた研究者が夏ごろだったかセクハラをしていたことが分かりました)

自らの経験、周囲で見聞きした経験からも言えますが、若い学生の将来が沢山これまで奪われてきました。全員やる気があったとして、行けるところに進んでいたらどうなっていたでしょう。後ろの方にリンク貼りますが、わたしもその被害者で学生時代から30年近く精神を患っています。途中で遺伝も半分くらいは絡む病であったと分かりましたが。

文系にハラスメントがないわけではありません。そのいやらしさは例えば、詩人・文月悠光(ふづきゆみ)さんの書いた「詩人と娼婦」問題(「私は詩人じゃなかったら「娼婦」になっていたのか? 」(リンク))に出ていると思います。今は有料記事になっていますが。セクハラしている方が文学的な問題とはき違えているところがすごくいやらしいです。

学生を追い詰める「ブラック研究室」の実態
http://newswitch.jp/p/8290
魚拓
家庭教師や塾教師をしていたとき、お母さん方が「資格で安泰に」「手に職」のようにおっしゃることがよくありました。自分ができなかったことを子供に代わりにさせようというお母さんも。でも、それで本人の意に反して理系にやるとすれば、お子さんをひとりの人間として見ていないことになります。これから書くような悲惨なことも起こりかねません(自分から「行く」というなら問題点を教えた上で行ってみれば、と言うのもいいかと思います)。

また、翻訳者には文系出身で専門知識がないことに悩む人が多く、理系出身は少数派です。何か理系を「打ち出の小槌」のように「なんでもできる」と勘違いする方もいます(翻訳会社にもいます)。人によっては死人が出んばかりの過酷な目にあって卒業しているのに、嫉妬なのか無知なだけなのか、無神経な言葉の対象にされることすらあります。今までいちいち言ってきませんでしたが、理系の実態は最悪の場合こうなる(=命がない)なのです。実は上に挙げた文月さんは、「詩人」という肩書きについてくる偏見についてエッセイで書いていて、「理系」と何かが似ています。

冷静なイメージがあり冷たく見えようとも理系も人間ですから、研究室の上の人間が1ヶ月も罵倒すればご飯も喉を通らないし眠れなくなります。そこから「死」に向かうなんて簡単です。そうやって大学に行けなくなった生徒は、専攻によっては珍しくありません。論文を人質に取られハラスメントされることもあり、そうすると卒業ができなかったり危うくなったり、手柄を取られたりすることだってあると聞いています。された方は泣き寝入りしかできなかったのではないでしょうか。

そうやって噂になるのが「ブラック研究室」ですが、誰も何もできません。入ってから分かっても配置換えできたらいいのですが。Googleで検索してみたらこうなりました。

rated_lab

「アカハラ=アカデミックハラスメント」という名前は実はかなり古いですけど、そう呼ばれる前からこのハラスメントはありました。例えばいじめが学生時代にあって、いじめられた方はずっと引きずったり進路が狂ったりするのに、いじめた方はしれっと普通に家庭持ったりしているというような理不尽さと同様のことが起きています。

なお、アカハラは教員間にもあり、中間管理職的な教員がもっと上から受けるものもあります。

わたしがいわゆる「専門知識」(たった学部並みですが)と引き替えに得たのは健康を長期にわたって害し、就職も逃すという結果でした。きちんと就職もしたかったし、やりたいことをやれるだけの体力も欲しかった。ですが(2017/05/23追記:修士に)進学したときに不況に入ったということもあって、卒業も就職も叶いませんでした。それを何も知らない人は「理系でいいねー、うらやましい」と言います。何とか卒業はしたくて(その後修士に進んで出ないとやりたいことができないため)、這うようにして学校に行きました。うつ症状が出ると朝がとても辛くなるので、這うというのは誇張ではありません。

進学を控えた、特に理工系や生命科学系の学生さんは、そういうハラスメントがあり得ると前もって知っておくだけでも少しは違うかもしれません。同じ研究室で朝から晩、深夜まで(朝まで?)閉じ込められていると面倒が起きやすいようです。研究室にいる時間が自分の経験では10時間くらいで普通でした。病気していたから無理できなかったですが、頑張れる人はもっと残っていました。

Classmate - Patrick_and_Mike

“Classmate – Patrick/Mike” by Marck Schoenmaker is licensed under CC BY 2.0

他のブログで読んだ対策案へのつっこみです。

1.研究室訪問:やらないよりはマシですが、それで全部は分からないと思います。わたしは修士に進むとき当時自分の大学からはあまり行われていなかった大学を替わるということをやったので、3校6講座の先生に約束取って会いました。一番話しやすかったのが最終的に決まった先生で、その予感は幸い外れていなかったのですが、世の中には最初はよくても裏表があったり豹変したりする人がいます。研究室はよく「あそこはきつい」とか噂が立つのですけど、今思えば自分が学部でいたところも事前に噂がありました。

2.ハラスメント相談室:人の話を総合すると、あまり役に立たないようです。既に削除されたTwitterによると、「相談したことを相手に漏らす」という相談室があるらしく、大学にもよるようですけど役に立たないと。他にセクハラ窓口の旗振り役が自らセクハラをしているというしょうがない話を読んだことがあります。

3.法テラス:下のリンク先にありますがわたしはDV調停離婚経験者で(有責側が調停起こしたと理解しています)、その後制度が法テラスに変わりました。一般的に弁護士に相談しようとすると役所などに法テラスを薦められます。証明しにくいものがアカハラやモラハラ(精神的ハラスメント、家庭だけではなく職場などにもある)の特徴だと思うので同列に書きます。

調停当時、弁護士さんによって対応はえらく異なりました。アカハラやモラハラの場合、証拠もはっきりしないのに大学という組織にケンカ売ってくれる弁護士さんは簡単にいますかね?DVでも精神的被害の訴えだけで勝訴したという話を聞いたことがありません。弁護士会などが犯罪被害相談ダイヤルを設けている自治体もありますが、常時開いていない場合もあり、うちの県では存在自体ほとんど知られていません。電話で訴えても先につながるとは限りません。

アカハラを受けて、裁判で勝訴したという例もあります。

http://thelancet.com/pdfs/journals/lancet/PIIS0140-6736(05)71533-6.pdf

(なくなったら困るので、ダウンロードしたもの。PIIS0140673605715336

試料などを持ち出され廃棄された日本人の女性研究者が勝訴した話で、2001年のLancetにあったものがなぜかその近辺だけpdfで見つかりました。証拠があったからこその勝訴ではないかと思います。

ブログ主のアカハラ体験で、この10年超ブログ書いたうちのトップ5には入っている記事です。

アカハラ被害体験とそこからの救済について(長いです。2015年と17年に追記)。

最後にキャンパスでの性 被害の話です。入学時の歓迎会などでのお酒の強要、最近はアルハラとも言うらしいですが、さらにセクハラやそれ以上の被害がこれから増えるのでしょう。深刻な被害もあるので書いておきます。今まで大学内の性 被害は表に出なかったのが変わってきました。去年大学内での性 犯罪摘発が多かったのは単に被害者が訴え出られるようになっただけだと思います。酒の席でなくとも性 被害はありますが、もしも被害に遭った時のことを考え次に書いておきます。
(性 暴力の定義を注釈として最後に付けます)

あまり知られていないようですけど、性 加害者で一番多いのは「夜道の見知らぬ人」ではなく「友人・知人」で80%(最後の注釈参照)を超えます。つまり、ほぼ泣き寝入りだと言うことです。わたしは大学外での被害者ですが、身近なケース2件だったためそれが被害だと気づくのに10年くらい遅れ、気づいた後パニックを起こしたりしました。
都道府県ごとに被害の後処理が1ヶ所ですむワンストップセンターができつつあり、病院や警察で何回も被害状況を話す必要がありません。東京の「レイプクライシスセンターTSUBOMI」は、時効がきている件でも3回まで電話で聞いてくれます(被害者センターも各地にありますが、相談可能かはケースバイケースのようです)。全国のワンストップセンターは以下の通り。
http://purplelab.web.fc2.com/onestopcenter.html

悲しいですが訴え出ても相談しても2次被害があります。新入学のみなさんに言いたいのは、お酒ってうまく使わないと一番メジャーなドラッグですからね。泥酔させられ被害に遭ったケースが昨年大きく報道されたものではほとんどでした。しんどいのなら一気飲みは断るのが身のためです。命にも関わりますし。仲がよい人ではなかったけど、同級生が1人急性アルコール中毒で亡くなっています。
酒が絡んだ性 暴力などの参考意見を医師のツイートやブログから注釈に張りました。

最近の強 姦罪改正で、男性に対する性暴力も認められるようになりました。ちなみに米有名私大も強 姦被害がひどく、オバマ前大統領がどうにかしようとしたくらいでした。
法律の改正点はこんな感じです。
現行刑法は「男尊女卑の発想」 性 犯罪刑法改正、残る論点は
https://news.yahoo.co.jp/byline/ogawatamaka/20170315-00068739/
なお、学内でもデートDV、ストーカーがあり得ます。

そういうわけで、この時期入学したり研究室に配属されたりする学生さん向けに各種ハラスメントについて書きました。将来的に進む方にも参考になればと思います。いや、大学でのサバイバルも大変ですね。何か「こうすれば逃げられる」という手立てがあれば良いのですが、今回のテーマは詰まるところ「暴力」で加害者にはまず実感がないため、気がつかないうちに「自分が悪い」という方向に追いつめられる被害者も十分考えられます。まずは気がつくところからかと思います。

注釈:

性 暴力の定義は日本福祉大のHPでこんな感じです。恐らくほとんどの女性は被害経験があるでしょう。

※キャンパス・セクシュアルハラスメントとは
相手方の意に反した性的な行為や言動そのもの。また、それによって、学業や大学業務を遂行する上で不利益を与えたり、学業や就業の環境を著しく悪化させてしまうことを指します。
※性 暴力とは
レイプや痴漢行為、のぞきなどの明らかな犯罪ばかりではなく、相手方の意に反した肉体的な暴力あるいはことばの暴力によって性的関係を強要したり、間接的に性的接触を行うなどの犯罪的行為を含みます。
—–
知人・友人からの被害80%のソースは以下の通り。

性暴力の8割「知人から」…被害者支援の弁護士「自分を責めないで」(弁護士ドットコム)
https://www.bengo4.com/c_1009/c_1198/li_328/
魚拓

子の性暴力被害なくそう 大津のNPO、小中学校へ出張講座(京都新聞)
http://www.kyoto-np.co.jp/politics/article/20170327000021

魚拓

———

医師の意見

日付をクリックして付いたコメントも見てみることをお薦めします。

河野美代子のいろいろダイアリー
http://miyoko-diary.cocolog-nifty.com/blog/2017/04/post-e617.html

魚拓
この先生のおっしゃることその通りで、被害に遭うとなぜでしょうね、被害者がいろいろと責められます(女性が被害者の場合、女性にまで)。なにか社会的に性 被害を生み出す土壌があるのだろうと考えています。
———————————–

今回のおまけ:陰鬱な内容だったので、最後に綺麗な話題を。院生の時先輩が紹介していた「生物発光」という現象。ホタルとかホタルイカなどがそうです。バイオで検出に使いますが、近所の大学でバイアルの中で光るのを見せてもらったことがあり、とても美しいものでした。

Firefly

Photo: Firefly Mr.k_Taiwan via VisualHunt /  CC BY-NC-SA

監修:原典行(元東京工業大学大学院 物質科学専攻助教)

五感で感じる化学(2)――料理は化学だ!――朝ドラ『ごちそうさん』め以子の場合

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初めましての方もいらっしゃると思います。

ヨシダヒロコと申します。同姓同名が多いのでカタカナにしています。

「五感」と書いていますが、匂い(嗅覚)やさわり心地(触覚)は文章のみの表現になります。もし様々な障害などでコンテンツが感じ取ることができないけれど、もっと内容について知りたい方は、コメント等でお知らせください。なお、わたし自身は別のタイプの障害者です。

前回から時間が空きました。秋からBSで再放送している、杏主演の朝ドラ『ごちそうさん』を見ています。東から西に、またはその逆に移動してカルチャーショックにという話はよくありますが、このドラマはヒロインの東京の実家がやっている洋食屋がとってもおいしそうなのと(戦前なのに)、後に大阪に引っ越して以降も、知らない食べ物や文化がこれでもかと出てくるところがすごいです。商店街で相談して夕飯の献立決めたというの、うちの近所でもあったらしいです。

め以子は子供のときから食い意地の張った女の子でしたが、ある時料理に目覚めるときがきます。相手役の悠太郎(東出昌大)は長身で大阪人なので、め以子の女学校の友達に「通天閣」とあだ名をつけられてしまいますが、手違いで下宿生として住むことに。ある時め以子が科学の試験で追試を食らってしまい、ぜんぜん分からないので帝大建築科の悠太郎にお願いして教えてもらいます。それがとても面白い。

ごちそうさん10話「黄身と出会った」

www.nhk-ondemand.jp/goods/G2013051435SA000/

(NHKオンデマンドへのリンク)

ごちそうさん11話

http://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2013051436SA000/

ごちそうさん12話(ここが話の肝!週末の完結話)

https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2013051437SA000/

12話だけでもいいし、前2話くらい見たらもっと分かるかなと思います。前回予告で題名を「化学」と言っていたのですが、ドラマでは「科学」でした。ただどちらかというと料理は化学の要素が強いですので、タイトルはそのままにします。

お互いツンツンしていた2人が科学のあれが面白いといって盛り上がるのですが、それは悠太郎が「分からないところが分からないのでは」と図星を突いたことをいい(勉強が分からないときは往々にしてそうだと思います)、食べ物を例にして教え始めたからです。

例えば、ドラマ中でめ以子の父がスコッチエッグを半熟にしたいと苦労していましたが、ある工夫で解決します。そこには物理と化学の間くらいが絡んでいます。写真探したら、半熟スコッチエッグ(Soft-boiled scotch egg)はその工夫をせずともできるようですが、肉を多くしたかったらああなるのかな。

Scotch Eggs

iStock

他に出てきたのは、牛乳はコロイド(colloid)という粒子が浮かんでいて白く見えること。岩波理化学辞典によると、コロイドとは通常の原子よりも大きい粒子を形成している状態で、グレアムが見つけました。他にもタンパク質やデンプンなど多くの例があります。

Bottle and glass of milk

iStock

乳化(emulsification)も出てきました。油と水が混じることで、ドレッシングといえば分かるでしょうか(最近ノンオイルのものもありますけど)。マヨネーズもそうです。

italian_dressing

Wikipedia: ITALIAN DRESSING! HANDS OFF

パスタ料理を作る人はご存知と思いますが、シンプルなものほど難しいです。赤唐辛子とにんにくとパスタのゆで汁の塩味でほぼ決まるぺペロンチーノ(アーリオオーリオ)はうっかりしょっぱくなったり唐辛子が辛くなったりします(当社比)。乳化は大事とあるとき知って試していて、今回タブレットを持ちつつ撮ってみました。オリーブオイルのフライパンにゆで汁を入れて揺すって混ぜます。水と油が混じるのがうまく見えるでしょうか。

おいしい作り方のコツを教えている動画(10分)も見つかりました。乳化は3分20秒過ぎと6分過ぎから最後近くまでです。

参考:【失敗しない】美味しいペペロンチーノを作るためのレシピ科学

http://r.gnavi.co.jp/g-interview/entry/1768

魚拓

他に出てきたよくある現象はタンパク質の凝固(coagulation)です。卵はタンパク質でできているので熱で固まります。ベーコンエッグやハムエッグなら両方凝固しますね。

Hot fried eggs in a pan

iStock

め以子は苦手だった通天閣に好感を持つようになり、それはお互いなのですが、科学も料理もつながっていて生活に根ざしており、どっちも面白いと気がついたのでした。そしておいしいご飯を作るのに情熱を燃やすようになるのです。

ちなみにこの「料理は科学」、49話~54話の「君をあいス」で作った新メニューでも生かされます。

料理と化学に関して参考本。以前「大さじ2杯は何グラム?」などと言っている建築系の人がいて、なるほどそういう発想もあるかと。その人が選んでいた本がこんな系統だったかと思います。

http://www.seishun.co.jp/book/15812/

最後におまけ動画です。

次回第3回は「モルって何?」です。第1回にも書きましたがわたしも最初分かりませんでした。(2018/07/28 12:52追記:急遽これに差し替えました。

「五感で感じる化学(3)――【番外編1】アカハラとブラック研究室が消え去る日はいつ?」

「モルって何?」は第4回です)

監修:原典行(元東京工業大学大学院 物質科学専攻助教)

五感で感じる化学(1)――わたしが化学を学んだきっかけ

他の連載  (2) (3)  (4) (5)  (6)  (7)  (8)  (9)  (10)  (11)  (12)

初めましての方もいらっしゃると思います。

ヨシダヒロコと申します。同姓同名が多いのでカタカナにしています。

「五感」と書いていますが、匂い(嗅覚)やさわり心地(触覚)は文章のみの表現になります。もし様々な障害などでコンテンツが感じ取ることができないけれど、もっと内容について知りたい方は、コメント等でお知らせください。なお、わたし自身は別のタイプの障害者です。

上の方に書いてある通り、化学を最も得意にしている翻訳者ですが、実は大学入試のときに理系に進むのさえ危ぶまれました。中学生までは数学が少々苦手だったかもしれないくらいでしたが、高校理科(普通科理系では生物が取れず物理・化学)そして数学には泣かされました。科学者で文章がうまい人がいて、そういう方のエッセイなど読んでなりたい進路があり、どうにかならないかなと思いながら吹奏楽ばかりしていました。

化学に関しては、複数のきっかけがあって「美しいものだ」と思うようになりました。高校理系でも多分実験はあまりないのではと思います(後に教えた生徒さんにも聞いた)。手を動かすと覚えやすいのですけどなかなか難しいらしく、先生が代わりに金属イオンが反応した色水を試験管立てに沢山持ってきてくれました。正確には「無機化学」という分野で、例えば炭素の入っていない鉱物の結晶などを扱います。その色水が面白かったので、正直モルの計算はできないわ、実力テストで赤点取るわ(理系科目全部そうだった)のわたしでも、勉強してみようかという気になりました。サボっていたのは部活が忙しかったからで、引退後はひたすら勉強していました。

その色水は、英語の画像と動画で示しますが、「金属イオンの反応と沈殿反応」などと呼ばれます。うまく使えばいろいろな金属イオンが混ざったものに硫酸などの試薬を加え、順番に分けていくことができます。ものによってはとても色がきれいだったり、ぱっと色が変わったりして楽しいのです。下の画像は、周期表でいうと上から4列目くらいの元素の色です。

Transition-Metal-Ion-Colours-Aqueous-Complexes.png

Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivatives licence by Compound Interest

もしあの試験管の色水がなかったら、進路が違っていたかもしれません。これを読む皆さんにも化学に苦手意識がある人が多いのではないかと思いますが、結構それはもったいないです。次回も書きますが、とても身近なものですから。読者は翻訳者さんと何らかの理由で化学に興味を持った方を想定していますが、これは自然界の基礎なのです。理屈は分からなくても、不思議だとか面白いな、と思ってもらえたら幸いです。

もうひとつ、カラフルな反応で高校時代良く覚えているのは、炎色反応です。写真はすべてWikipedia英語版”Flame Test” (https://en.wikipedia.org/wiki/Flame_test)(ドイツ語版からの引用が混じっている)です。実際に見たかはよく覚えていません。

異なる元素の溶液をガスバーナーで加熱するといろんな色になるのですが、一番身近な例は花火で、他には味噌汁や煮物が吹きこぼれたときぱあっとオレンジ色になるのはナトリウムの、鍋を火にかけていてガスが青緑の炎になるのは銅の炎色反応です。最近多いIHだと分からないでしょうけど。
女の子連れで花火大会に行き、花火を見て「炎色反応」と言い出す男性を野暮だという感想を見かけたことがありますが、そうでしょうかね。

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Gas flame used for flame test of coppersulphate. 13. jun 2005 Søren Wedel Nielsen {{GFDL}} {{cc-by-sa-2.5}}

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リチウム 

Flame test Lithium, karminrot         Source: German Wikipedia, original upload 24. Jan 2005 by Herge (selfmade)

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ナトリウム

The flame test for sodium displays a brilliantly bright yellow emission due to the so called “sodium D-lines” at 588.9950 and 589.5924 nanometers.
by Søren Wedel Nielsen

flammenfarbungsrストロンチウム

カルシウムに似た「アルカリ土類金属」というグループの仲間。ちなみに自然界の多くの元素には放射性同位体(放射線を出して異なる元素に変換するもの)はありますが、このストロンチウムには天然の放射性同位体はありません。

Flame test Strontium, rot Source: German Wikipedia, original upload 24. Jan 2005 by Herge (selfmade) [[de:Bild:{{subst:PAGENAME}}]] {{PD}} Category:Flame test\

高校化学はいろんな分野が1冊になっていて後に塾教師などになったとき教えるのに「やりにくい」と思いましたが、わたしの時代は最後に「有機化学」がありました。アルコールとか石けんとか石油とかプラスチックとか普段近くにあるもので、その頃にはめでたくモルの計算もできるようになっていました。

こういう写真を見られる本としては下のものがあり、高校生によく見せていました。

改訂版 視覚でとらえるフォトサイエンス化学図録 数研出版

https://www.chart.co.jp/goods/item/indexes/5794.html

高校理科4科目揃い、iPad版があります。物理はDVDがあるんですね。参考書でも値段がお手頃な方です。他にも図録が安くありますので、書店で手にとって副読本にどうぞ。

このシリーズは12回くらい書くつもりですが、その2は料理は化学だ!――朝ドラ『ごちそうさん』め以子の場合です。

おまけで実験動画をつけておきます。わたしも何使っているか全部は分からないけど笑ってしまいます。アカウント名も素敵です。

監修:原典行(元東京工業大学大学院 物質科学専攻助教)