新書『翻訳百景』で、翻訳の海に戯れる。

ヨシダヒロコです。

ちょっと前に買ってあったのですが、夕べ1時間読んで今夜は一気でした。

翻訳百景 (角川新書)

越前 敏弥

KADOKAWA/角川書店

2016-02-10

by [Z]ZAPAnetサーチ2.0

いい本読んでると途中で考え事して時間をロスすることがあるのですが、楽しい約4時間でした。わたしは本の中のイベントに一般読者として関わっているので特に面白かったですが、翻訳者・通訳者などはもちろん、それらに興味がある人、言葉に興味がある人、ミステリーなどの読者、何だか分からないが越前先生のファンなど、事前知識がなくても楽しいのではないかと思います。

わたしは先生と同じくむかしNifty-Serveの会議室にいて、いた場所は違いますがミステリーのメルマガに関わっていたことがありました。初めて読んだのは高校の時のホームズで、北の方へ夜行列車に乗って受験に行くときも持っていきました。その頃、グラナダ編のホームズをやっていたかと。カンバーバッチ版は好きですが、全部見終わっていなくて、いい加減行かないと映画も見逃しそうです。

20代の頃にキングなどと並行して海外ミステリーを読んでいたのは、Niftyの影響だったと思います。あの辺には今も文芸系で活躍しているすごい人がたくさんいて、でもそっちに行く気はあまりありませんでした。10年ほど前に短い結婚をして、文字通り北陸に逃げ帰ってきて、しばらくは人が死ぬニュースも見られずミステリーも読めず、色々と使い物になりませんでした。今は、金沢読書会があると知って申し込みメールをすると「吉田さん一番乗りですね」と返ってきます。(2016/05/31追記:ミステリーの)読書量は少ないですが、読書会で貴重な本との出会いをしていると思っています。読書会での自己紹介にはフロストシリーズとクレイグ・ライスの作品(どっちも何かユーモラス)が好きと書いています。その方向だとジーヴスとかも興味ありますが、バッドエンドも嫌いではありません。

この本は越前先生の本ということもありますが、去年した仕事の中に文学的センスの必要なものがありクライアントからダメ出しを食らってしまったのです。考えてみたらしばらく文芸系の本は数が読めてないし、堅苦しい翻訳になっていたのかも、という理由もあって読もうと思いました。その期待は裏切られませんでした。

それで、こう書くのもおこがましいですが、越前先生とはいくつか共通点があります。

出身地が似ているのはまあ置いといて(北陸出身は少ないです)、

1.塾教師の経験がある。「うちでやらないか」と言われたことあるのですが断って、家庭教師が多かったです。今は流行らないらしく、みんな個別指導になっていますが。受験の面倒も見たし、お家の台所借りて、理科好きの子にちょっとした実験をしたりしました。頼まれた科目はなるたけ面倒は見ました。確かにあの手の稼業は体に悪いです。同業者で翻訳と両立していたり、過去に経験がある方はいらっしゃいます。

2.1.にも少し関連して、大病をしたことがある。わたしの場合は死ぬかという病の結果、なりたい仕事に向けての勉強継続ができなくなったのですが。今も調整は必要ですけど、そういう経験をするとダラダラ生きてるのはもったいないかな、と思うかも。病気をして今の仕事に変わったという同業者を他にも知っています。

3.英検、TOEICについては同感です。10年ほど前に1級と900点台を目指し、1級の方はあと1点などで落ちることを繰り返しました。産業翻訳では登録の際に聞かれることが多いので、あって邪魔になるものではないのですが、翻訳に必要ではありません。準1級は「何となく」大学1年でとって翌年ごく短期でイギリスに語学留学したら、あまりにも何もできなくて鼻をへし折られました。へし折られ体験というのはいいことだと思っています。最近別言語でとっている資格は、もちろんその後の目的があるのですが、勉強して上達する過程も楽しいものです。

まず先生のブログは、「本当は書きたかった」と後書きにあったSixwordsの辺りで知りました。例の文法本も出た頃では。Twitterでいろんな人の6単語詩が流れていました。

そんなこんなしているうちに、『翻訳ミステリーシンジケート』が始まって、調子を見て読むようになり、そのうち金沢読書会ができました。先生の講演が2012年で、2013年最初の第1回金沢読書会の課題本が先生を迎えた『氷の闇を越えて』でした。昔、銃で殺されかけた私立探偵の話。引っ張り出してみて思い出したけど、『解錠師』と同じハミルトンの作品、売れたためデビュー作が新訳されたのでしたっけ。『解錠師』も本の中に出てきますが、残念ながら積んだままです(『翻訳百景』読んでると読みたくなるのですが)。その後もう1回くらい金沢にいらして、東京のミステリー関係の集まりでも偶然お会いしました。

翻訳ミステリーシンジケート  http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/

以下、面白かったところや気に入ったところをばーっと挙げます。

 文芸翻訳の仕事

小説を訳していると言うと人に珍しがられる。これは産業でも同じなのですが、「翻訳者が聞かれるあるある」です。Twitterでよくこぼしてるのを見るのは「英語ペラペラでしょう?」でしょうかね。わたしも聞かれます。翻訳者以外の人は、「こういうことはどうして言ってはいけないか」「どうして的外れか」という参考にして欲しいです。

すぐれた編集者とは

産業分野ではプルーフリーダーやチェッカーですが、うまく間違いを指摘するのって難しいですね。変換間違いレベルのが放置されたりしていると、わたしも「かろうじてですます使ってる(けど[怒])」になってしまうかも。同じ間違いを何回もしているときがあって、辛抱強く「前にも言ったけどもう言わないからね」みたいに指摘してもらえるのはありがたかったです。ここ2年くらいで直される経験をたくさんしました。ついでに書いておきますが、訳文を人にさらすのは大事だと思っています。ギャラリーはできるだけ多い方が良いです。

翻訳書のタイトル

どうやって決まっているか例を挙げて書いてあります。知ってる本だと面白い。先生の訳書は全部対訳形式になってリストがあります。

『ダ・ヴィンチ・コード』関連:

全体の1/4を占めます。ダン・ブラウン作品は『ダ・ヴィンチ・コード』を読んだのと、金沢での講演会『翻訳百景』(最後にメモを書き起こしたリンクあり)でパロディの話をお聞き したくらいですが、調べ物や造語の訳や、最新作『インフェルノ』で欧州系翻訳者が遭った罰ゲームなど、全く読んだことない人でも楽しいと思います。楽しくてためになって、その後じっと手を見る感じ。

全国翻訳ミステリー読書会

敷居が高いとお思いの方もいるでしょうが、課題本読んで、感想は何言ってもいいです。第1回読書会で、金沢ではヒーローと訳ありの女性を指して「ああいうきつい女性はごめんだ」といった人がいましたから。本をネタにして好きな話をするという感じでしょうか。ここに出てくる福島の読書会にも、脱線した結果『翻訳ミステリーシンジケート』のアクセスがすごいことになったとか、この話から来たのかと分かりました。SNSでの先生はラーメン店開拓に余念がないですね。金沢にも他県から来ます。

読書探偵作文コンクール

この子供向けのコンクールは存在しか知らなかったのですが、ここまで盛り上がっていて、こういうレベルの高い応募作品が来るとは知りませんでした。

『思い出のマーニー』翻訳秘話

ジブリの原作本を大人向けと子供向けから同時に出して欲しい、3ヶ月の所を1ヶ月でという依頼。こういう突貫作業、他の所にも出てくるんですがさすがにこの作品のときは「やまねこ翻訳クラブ」(Niftyが元になった児童翻訳本愛好クラブで、たくさんデビューしている)の方が協力してくれて。作業の様子が見られます。『マーニー』は大人向けのを今持っていて、優先順位が高めです。これも本に収録できなかったそうですが、クイーンも突貫があったそうです。

ことばの魔術師 翻訳家・東江一紀の世界

わたしにはミュージシャンなどで、訃報に接して初めて「すごい人だったんだ」ってことがよくありますが、短い訳文から「魔術師」であったことがよく分かります。去年亡くなった翻訳者さんで、追悼イベントがたくさん組まれていたし、『ストーナー』が日本翻訳大賞の読者賞を取って興味を持っていました。遺作でした。今わたしがブログで書きかけている、ニュートリノの実験物理学者・故・戸塚洋二先生は「死んだら人は消えてしまうのか、どうなってしまうのか」ということをずっと考えていたそうです。最近思うのは、その人のことを懐かしむ人がいる限り、または業績を上げた人なら本の中などで生き続けるのだろうなと。東江先生の略歴・業績・名訳集はブログ『翻訳百景』でダウンロードできます。ざっと見て、長く患われたんだなと思いました。

最後に、『翻訳百景』が太宰から来ているとは知りませんでした。わたしは高校教科書で読んだのですが、作品たくさん読んだわけではないけど珍しくすがすがしくてこれも良いなと思いました(その頃は『女生徒』が好きで、今は『斜陽』が面白そうかと)。

越前敏弥先生講演会「翻訳百景」@石川県立図書館(その1)(2012/10/7)。

越前敏弥先生講演会「翻訳百景」@石川県立図書館(その2)(2012/10/7)。

越前敏弥先生講演会「翻訳百景」@石川県立図書館(その3)(2012/10/7)。

東京・大阪では定期的にやっているイベントなので、行ってない人は損してます。是非。

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