ノーベル生理学・医学賞受賞、ウィリアム・C・キャンベル博士について。

ヨシダヒロコです。

ノーベル賞授賞式終わりましたね。日本からのおふたりは楽しんでこられたようで良かったです。梶田先生の奥さんが「初めて夫が何の研究をしているか分かった」と言われたことは、「さもありなん」という感じでした。地元では梶田先生効果で結構盛り上がってたようです。一方の大村先生は亡くなった奥さんの写真と娘さんと一緒に出席されました。最近になって、この先生が受賞記者会見の時、首相からかかってきた電話を待たせて記者会見を続けたという「ちょっといい話」を知りました。

その大村先生と同時受賞されたキャンベル博士のこと、ずっと書きたく思っていましたが、なかなか筆が進まなくて。研究に関する情報もなかなか見つけられず、授賞式の頃になって日本語でも出てきたので、そのリンクと、前から見繕っておいた本国アイルランド(アメリカは市民権だけのようです)の報道も合わせてご紹介します。

日本語で出た報道。

大村智博士、ウィリアム・キャンベル博士、製薬会社の勇気と決断――「3億人を救う薬」はここから生まれた。(Huffington Post)

「医療はビジネスか、ボランティアか」大村氏ノーベル医学賞受賞から考える(The Page)

簡単にいうと、大村先生の見つけた放線菌に活性(効力)があることを見つけたのがキャンベル博士です。更にできた薬をメルク社が無償提供したことが大きな業績です。最近エイズでも見ましたが、貧しくて薬を買えない人々が世界には沢山いるのです。

まず下の写真は学部の出身校、ダブリン大トリニティ・カレッジHPからの引用(下のリンク)です。名誉博士号を既に受けているようで、この配色はやはりアイルランドですね。名誉博士号とは、Ph.DならぬSc.D(Doctor of Science)と書くのだと知りました。サイエンス以外でどうなるのか知りません。Phも元は「哲学」の略ですよね。ちなみに、トリニティ・カレッジ出身の受賞者はこれで3人目、原子核が破壊できることを発見した物理学者のウォルトン、作家のサミュエル・ベケット(ジョイスの秘書だった)。

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Pictured in 2012, accepting an honorary degree at Trinity College Dublin for his contribution to science, is Professor William Campbell (middle) pictured with University Chancellor, Trinity College Dublin, Dr Mary Robinson, and Provost of Trinity College Dublin, Dr Patrick Prendergast.

(2012年の名誉博士号受与式のときのもの。大学総長(左)、カレッジの学長と一緒に)

1930年北アイルランドデリー生まれ、ドニゴール(アルスター地方)育ち。1952年に大学を卒業。英国などの学士号にはhonourというのがあって、優等学位というそうですが、そのうちのトップ(1st)の成績で動物学の学位を取りました。それから57年米ウィスコンシン大に留学して博士号を取り、メルクに入社しました。研究所は(和名が見あたらないので)Merck Institute for Therapeutic Researchというところに90年まで勤め、62年に米市民権を取っています。Wikipedia見ていると、国籍はアイルランド、市民権は二重に持っているみたいです。

メルクは超大企業で、理系の化学・生物など・医学系の人なら学生でもお世話になっています。研究室には試薬や器具のカタログがあって、何か割ったとか薬品が足りないとか言っては注文するのですが、複数社あって、メルクのもあったかも。他に有名なのは一般の人でも読める家庭医学書の『メルクマニュアル』があります。ネットで読めます。

90年に引退後はドリュー大(ニュージャージー州)の名誉リサーチフェローとして寄生虫学を教えています。2002年に権威ある米国科学アカデミー会員に選出、2012年にトリニティ・カレッジ名誉博士号。この時、イベルメクチンについて講演。2015年にノーベル賞、というわけです。85歳とご高齢なので受賞が間に合って良かったです。

絵と詩を書き、卓球とカヤックがお好きだそう。絵ですが、なんと寄生虫をカラフルに描いたユニークなものです。絵は下のリンクで見られます。「わたしは虫を気味悪いとは思いません。きれいなものです。虫たちは自分のすることをしているだけです」だそうです。きっと微生物が大好きな大村先生と気が合ったのではないでしょうか。作風は「寄生虫シュールレアリズム」だそうです。

Wikipediaにあったことですが、アイルランドの食べ物として有名なじゃがいもの病気、ジャガイモ疫病を治す方法も発見しています。

ここまでの参考は
Wikipedia英語版
https://en.wikipedia.org/wiki/William_C._Campbell_%28scientist%29

トリニティ・カレッジのニュース:Trinity College News and Events
Trinity Graduate William Campbell Awarded Nobel Prize in Medicine
https://www.tcd.ie/news_events/articles/trinity-graduate-william-campbell-awarded-nobel-prize-in-medicine/6003#.Vm2J8r9DSDm

博士のアーティストな面について、ドリュー大学のHP。
Dr. William Campbell: Nobel Laureate, Painter, Actor, Writer
https://www.drew.edu/news/2015/10/09/nobel-prize-winning-scientist-also-loves-the-arts

博士の引退生活、業績とアート。コミュニティからは「ビル」と呼ばれています。
Nobel Laureate Dr. William C. Campbell: A man of character, passion and art
http://www.prweb.com/releases/2015/10/prweb13044678.htm

さて、後半はトリニティ・カレッジの紹介していた記事(アイルランド発)から、キャンベル博士の業績とその語録を拾います。
↓カレッジのツイート。

全部の訳は著作権などの関係があるので、一部だけ。

電話インタビューの要点を訳すと(ちなみに博士はお国言葉が残っていたそうです)、

――ノーベル賞受賞後の生活について。
既に影響は受けていますが、賞を受けたからといって価値観は変えません。

――エバーメクチンを無料配布したことについて。
わたしは最終決定をしておらず、その大変な決断をしたのは会長でした。企業としてはすばらしいことですが、それは従業員の士気を上げるためではなく、正しいことだったからです。だから従業員も賞賛したのです。

――アイルランドで育ったことにについて。
昔ながらの価値観で両親に大切にされ、兄弟共々小さい時から家庭教師が付いていました。トリニティ・カレッジでデズモンド・スミス教授に寄生虫学を教わり人生が変わりました。留学の手配もしてもらいました。今も連絡を取っています。

――夢について。
マラリアを治すことです。科学でいちばん難しいのは、グローバルに考えシンプルに考え、それに従って行動することです。途上国の病気を無視するのは無情なことです。ある地域は他の地域に影響するので、お互いに面倒を見る義務があります。しかし自分のこともやらなければいけない。その両方でしょう。

――神について。
神を信じています。毎晩欠かさず祈ります。科学と神は共存します。英国の詩人、ガブリエル・ロセッティは無神論者のことを「感謝する相手がいなくてかわいそう」だと言ったのがいつも心に残っています。我々には感謝するものが沢山あるからです。

――今のアイルランドについて。
昔はなかった建物が建っていたり、人々が元気で景気よさそうにしていたり、帰ってきて見ると嬉しく思います。見通しは明るいと思っています。アイルランドの科学教育もとてもうまく行っているようですが、限られた数の人にしか会っていないので、一般の方々については分かりません。

――幸福について。
人生に幸福があることを知るには働くことです。困難であっても。意味のある仕事をするには仕事がきつくなければなりません。楽な仕事では駄目です。同時に、うまく行けばいい暮らしができると言って過酷な仕事をするのはいけません。自分を痛めつける必要はないのです。

――85歳で元気なことについて
時々疲れたと思うこともありますが、ほとんどは元気です。毎週3回、午後は卓球をしています。朝に天気が良くて湖面が静かならカヤックをします。朝の湖を見るのが好きです。わたしはすばらしい妻や子がいて、興味も沢山あり幸せです。科学者として、科学の他に何か趣味があったら良いと思います。わたしは詩を書き絵を描きますが、あなたが詩を読むのなら書いてみたらいかがでしょうか。

――教育について
(子供の頃暗記漬けだったので)わたしは偏っているでしょう。教育の専門家ではないので、専門家がもっと知っているのではないでしょうか。

――研究成果について
エバーメクチンがいちばん影響がありました。しかし他にも沢山仕事をしているので、いちばん楽しかったわけではありません。寄生虫を凍らせて生き返らせるという仕事をして、とても満足がいった研究でした。サイドプロジェクトの方がいちばん面白いことがあります。虫の実験はあとで役に立ちました。

――若い研究者、ベテランの研究者へ
若いときはいろんな研究をします。年齢が上がるといろいろなものの見方ができるようになりますが、若いときは頭の回転が速く、それが必要です。年を重ねるとそうではなくなります。実験台で今実験をしないのは、集中力がなく、若いときよりバイアルや皿をごちゃ混ぜにしてしまう恐れがあるからです。

Meet Ireland’s new Nobel Laureate, William C Campbell
http://www.irishtimes.com/life-and-style/people/meet-ireland-s-new-nobel-laureate-william-c-campbell-1.2385532#.Vhe8dZKnjyM

化学賞については、ゲノム編集というわたしが勉強中の分野なので、ちょっと書けそうにありません。代わりに、ご存命ならば物理学賞を取っていたであろう戸塚先生のお話をそのうち少し書こうと思います。

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