ノーベル生理学・医学賞受賞、トウ・ヨウヨウ先生の研究人生。

ヨシダヒロコです。

この記事の続きです。わたしのやっていたことは、今回の先生の方が近かったです。大村先生たちもどっちも天然物化学ですが。

天然物化学とは~ノーベル生理学・医学賞。

上の続きは大村先生の共同研究者、キャンベル先生を先にしようと思っていたのですが、「むしブロ」のブログ主であるクマムシ博士の記事が面白かったのでトウ先生を先にしました。

クマムシ博士は独立系と言っていいのでしょうか?いきなり本題から外れますが、例えばさかなクンもそうですけど、比較的自由にものが言えて一般の人にも取っつきやすい科学者も増えてほしいものです。収入源など難しい面もあるかもですが。

ノーベル賞受賞者トウ・ヨウヨウ氏はダンゴムシをつぶしたか

480px-Artemisia_annuaWikipedia英語版より、クソニンジンの写真。植物にはこういう変な名前ありますね。

大きな成果を挙げた研究者をどう呼ぶか、普通の文章ででは少し悩んでしまいますが、トウ先生の場合は「博士」と呼べないのです。実はトウ先生の頃、大学院というものが中国になく、博士号が取れなかったそうです。

2014年にノーベル賞を予想していた日本科学未来館の科学コミュニケーター古澤さんのブログ記事。「博士」の事実誤認以外はとても分かりやすいです。薬の元になったクソニンジンの写真が他にもあります。
2014年ノーベル生理学・医学賞を予想する!番外編 ○○ニンジンは世界を救う!

事実関係については日英Wikipediaと、New Scientist “Nobel Prize goes to modest woman who beat malaria for China “(『中国のためにマラリアを撲滅した謙虚な女性がノーベル賞受賞』)、韓国のハンギョレ(比較的新しい新聞で、Wiki情報によると中道左派)『ノーベル医学賞共同受賞者のトウ・ヨウヨウ氏と大村智氏の特異な履歴』を参考にしてます。

まず、日本にある「漢方」は中国のものと同じと考えている見方が多いと思いますが、中国医学(中医学)とは別のものです。日本に入ってきてアレンジされたらしく、日本の中華料理みたいなものでしょうか。わたしは広島にいたときに漢方を取り入れた精神科医にかかっていたことがあって、ツムラとかではない煎じ薬(生薬)をもらっていたこともありました。煎じるのに時間がかかるので、辛くて台所に立てないときには不向きで、ツムラに変わりました。問診も独特で、横になった状態で舌の色を見たり、脈を取ったり、お腹をポンポンと叩いたりします。その問診のやり方が中医学では違うそうです。下のコラムは中国の方が書いていますが、その前からも中国で勉強してきた薬剤師さんの文章を読んでました。

意外に知られていない「漢方」と「中医学」の違いとは?

先ほどトウ先生が大学院教育を受けられなかったと書いたところですが、問題はそれだけではなく、毛沢東の命(ベトナム戦争で北ベトナムへ送るため)でマラリア薬の研究を始めたものの、時代は文化大革命でした。世界史の授業でも現代史に当たるため、よく知らない方もいるかもしれませんが、知識人をはじめとする反革命と見なされた人が弾圧されたのです。命があればいいほうか、あってもボロボロにされるか。トウ先生の夫は冶金エンジニアだったそうですが、収容所かどこかに送られていたそうです。国の高等教育もそうとうダメージを受けたそうです。

沢山の研究者が合成薬を研究するも失敗、中国医学の薬草で探すことにして、トウ先生が中国医学と西洋医学の薬に通じていたため白羽の矢が立ったとき、すでに中国と米国で240,000以上ものスクリーニングが失敗していました。毛沢東の523計画と呼ばれたそのプロジェクトに入ってすぐ海南島(マラリア流行地)に行き、半年後に帰ってきたら4歳の娘が自分の顔を覚えていてくれなかったばかりか、「変な女の人」と思われてしまったそう。夫はいないし。それでもトウ先生は「研究が最優先なので、喜んで家庭は犠牲にします」という感じだったそうです。海南島では末期のマラリアで死んでいく子供が多くいたそうです。

2000の処方を文献から持ってきて、380の抽出物をマウスに試し、マウス試験で有望だったのがクソニンジンArtemisia annuaでした。間欠熱(マラリア)に効くとされるものです。

一番最初のリンク2つに研究の大体のことは書いてありますが、古い文献(漢と隋の間の晋で、東晋時代)をひもといて、そこからヒントを得ます。『肘後備急方』は『応急処置の手引き』とクマムシ先生が訳していますが、英語では”Emergency Prescriptions Kept Up One’s Sleeve”となっており、肘後は「ハンドブック」らしいです(中国に詳しそうな鍼灸院さんのブログより)。1600年前の本です。ググるとどうもまだ図書館にあるようですね。Google Booksにもあります。2014年にBBCで15分のラジオドラマになったほど有名です。

上の方でわたしは漢方薬を「煮出す」と書きましたが、中医学でも普通はそうらしく、トウ先生もクソニンジンを煮出してマウスに与えたら何も活性はありませんでした。『肘後備急方』には、「草を2リットルの水に漬け、その汁を飲みなさい」とあったので、沸点35℃のエーテルで抽出しました。エーテルは暑い日には自然に蒸発していくような溶媒です。抽出物はマウスとサルで100%の活性。薬剤耐性の薬だ、と喜んだそうです(薬剤とは合成された薬クロロキンのことらしい)。

トウ先生は自分がリーダーだから、と最初の被験者になりました。1977年まで文化大革命のため研究は発表されず、研究者も匿名。だから、本国の研究者たちにNIHの人が尋ねても、アルテミシニンを作った科学者が誰だか分からないというようなことが起こりました。

先生の言葉。「科学者は全人類の健康のために努力を続ける責任があります。わたしの仕事は、国が与えてくれた教育の恩返しとして当然のことです」。さらに、夫、娘、孫と一緒にラスカー賞の授賞式に出たときは、「患者さんが治ることの方がもっと嬉しく思います」と語ったそうです。

クマムシ博士が書いていたように、まだ薬となる植物は中国医学方面からありそうな気もします。歴史が長いから文献をたどっていって。それに、たとえばチベットのような秘境を中国に含めるとすると、何か面白いものがありそうです。

おまけですが、わたしは大学時代の1年半、不真面目ながら中国語を履修していました。『黄色い大地』とか抽象的な映画を見せられて、どうも分かりませんでした。そこに『芙蓉鎮』の公開があって見に行きました。筋をおさらいしてまとめると、「美人で働き者のヒロインが、文化大革命のために人生を狂わされ、ひどい苦労をする」という話です。それまで見た映画ではっきりした個性を持った中国人は見えなかったのですが、やっと出てきた感じでした。
昔の映画なのにトレイラーありました。字幕見にくいです。

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