ヨシダヒロコです。
(追記があります)
(2015/12/10 18:04:更に追記があります)
連休中は凍えていましたが、要するに厚着すればよかったということが分かりました。
さて、天然物化学がわたしの覚えている限りもしかして初めて?受賞したので、ほとぼりも冷めたことだし書いておきます。院生(中退したけど)のとき勉強していて、違う大学で学部生をしていたときも関係のあることをしていました。
もともとハーブとかが好きで、それが「生活の木」が郵送で通販を受け付けていた頃にさかのぼります。一言でいえば天然物化学は、天然にある植物、海藻、微生物などいろんなものの成分を取りだして、分子がどんな形をしているかを突き止めたり実際に作ったり、薬効がありそうか調べ、製薬につなげます。だから薬学に近い学問です。実際、院生の時薬学部の学生と一緒に実験していました(最近はバイオ的な要素も入っているそうです)。
薬効がありそうと言っても実際に薬になるのはごくわずかで、院生の時近くの研究室で研究していたイチイという植物から採られたタキソールは実際に抗がん剤になりました。全合成(最初から最後まで作る)を達成したグループに、見たことある名前が3人います。イチョウなんかはサプリになってますが、昔聞いたことがあるし、今でも色々やっているみたいです。
タキソール。作りにくそうな形です。構造式はWikipediaより。
色々測定や計算をして形を決める係の人もいて、沢山測定グラフを持ってきて「さて、どうしよう」という感じ。知らなかっただけで、最初に使えそうな天然物を持ってくる人もいたはずで、大村先生はそこからされていたのでしょう。学会には少しだけ行きましたが、全然違う系統のものを扱っていると流派(?)みたいなものがあって分かりにくかったりします。わたしのやっていたのはコレステロールから始まるステロイドで、他の分野はよほど面白い形や性質を持っていないと覚えていなかったですね。
(2015/10/13 1:56追記:思い出したのですが、カビからできた有名な薬としてペニシリンがあります。文科相のサイト他によると微生物に入るらしいです。ドラマ『仁-JINー』でなんか原始的な方法で薬を作っていたと思いますが、あれがそうです。タイムスリップした先では昔過ぎてペニシリンは作られていなかったわけです)
例えばこんな感じ。
藻類が作る神経毒シガトキシン。
徳島文理大学が発表したので「シクロアワオドリン」と言われている、糖が結合した化合物。
これも海のものの毒で、最大と言われるマイトトキシン。すごい毒です。これ、全部構造を決めた方がいるんです。
こんな感じのを知っています。田舎生まれ・育ちなので自然が怖いことは知っていますが、この学問を学んで余計怖いものと思うようになりました。薬と毒は紙一重だし、自然なものが優しいわけではありません(よく勘違いしている人がいます)。
今回のイベルメクチンはこんな薬。
単にわたしが勉強不足だったのかもしれませんが、今回の受賞でこういうスケールの大きい薬をつくった方がいたとは知らなかったですし驚きました。北里大HPによると、スタチンにつながる薬など400以上発見されているそうですね。びっくりするような数です。
技術的なことについて科学コミュニケーターさんの文章を見つけたのでリンクしておきます。
ノーベル生理学医学賞 大村智氏が着目した「放線菌」とはどんな微生物?
発表のあとニュースを見ていて、寄生虫と言うことはうちのいたち(フェレット)にも関係あるな、と思っていたら、やはりそうでした。フェレットは犬と同じくフィラリアになる可能性があり、春から月1で薬を飲ませます。イベルメクチンは似た薬がいくつかありますが(中身は同じだと思います)、それを体重に比例した大きさで割って、この子たちが大好きなペーストに混ぜて食べさせます。まれにそのまま出てくるらしいですが。
フィラリアのペットでの病巣は写真で見たことがあり、『動物のお医者さん』では「蚊が刺して、心臓に虫がわくんです」というような説明でした。ただ、即死というわけではないらしいです。ちなみに、この間獣医さんに聞きましたが猫もまれにかかるそうです。
去年のデング熱のときも、そういう病気の存在も知らなかった人多かったと思いますが、熱帯には他にもマラリアとかいろいろ訳の分からない病があって、今回受賞を受けた発見が大勢の人を救ったのはもちろん(アフリカや沖縄だとピンとこない人もいるかもですが)、小さなペットも救っていることを記しておきたいと思います。ちなみに、この薬の効く範囲はかなり広く、複数の寄生虫や疥癬・シラミなどです。Wikipedia英語版でざっと見ましたが、日本語に比べ全般的にに情報が多いです。
こんな本が出ているのですが、受賞当日に注文したところ、在庫がないそうです。
Amazonではあと10日弱で入荷です。
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大村智 – 2億人を病魔から守った化学者
馬場 錬成 |
その間、阪大・仲野教授による本のレビューをお楽しみください。仲野先生がHONZに正式に入って書かれた1本目です。個人的には大村先生ご本人が本を書いてくださったらな、とも思います。
http://honz.jp/9579
ちなみに、報道で興味を持ったのは美術の趣味のこと(園芸とか優雅そうな趣味を持っておられる先生は知っています)、「微生物のおかげ、微生物が受賞すべき」という本当に自然に畏敬の念を抱いておられるのだなと思われる言葉、奥様とのエピソード、毎日新聞に身内の記者さんがいて、毎年来るか来るかと思っていたことなどです。
同時受賞の先生方もすごい仕事をしているので、気が向いたら書きます。
日本では書いている人があまりいないようなので、それはちょっとフェアじゃないな、と思って。
(2015/12/10 18:05追記:書いたときにもう知っていたことだったのですが、大村先生の美術は趣味なんていうものではないです。美術館建てただけではなく、こんな本も書いていて、美術館たまに行くので眺めましたがレベル高すぎました。また、NHK『サイエンスZERO』で実験など交え、北里大学 北里生命科学研究所の方がゲストで説明してくださいます。大村先生の土採取七つ道具も出てきます。梶田先生と共に、12月11日早朝(木曜深夜)0:10~に2本続けて再放送があります。その後はNHKオンデマンドでどうぞ。好評ならさらに再放送するかも)
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人生に美を添えて
大村 智 生活の友社 2015-07-20 |