ヨシダヒロコです。
前振り(ネタバレになるのでしばらく黙ってました)
ノルウェー夢ネット主催「ノルウェーについて学ぶサロン」第70回・ゲスト・ヘレンハルメ美穂さん(2014/11/15)前置きと他イベントの宣伝。
ここにはヘレンハルメさん含む新刊情報のチラシ(会場で配られた)が貼ってあります。
こないだの連休で、北欧ミステリーのイベントは終わりましたので、そろそろ書きます。
趣味として時々ミステリー読書会に顔を出すのを楽しみにしていますが、普段はあまりミステリーの読書量多くないです。仕事に関係ある本を読んでいると暇が無くて……積ん読が増えるばっかりです。反省。
さて、このイベントは「翻訳ミステリー大賞シンジケート」で知って、いつかスウェーデン在住の中学時代からの文通友達(今はFB友達になっている)に会いたいと思っているわたしにはちょうどよかったです。越前先生の類似イベント「翻訳百景」も捨てがたかったですが、文芸をやる気のないわたしにとってはどちらか選ぶとしたら北欧の話が聞きたかったので。
ヘレンハルメ美穂さん訳の『三秒間の死角』は、春に行われた第3回金沢読書会の課題書で、訳者さんもおっしゃっていたように訳書のなかで特に読みやすいそうです。確かに800ページ退屈せず、後半はすごい疾走感でした。この本でスウェーデンに対するイメージががらっと変わりました。ダークな面を知ったのですが、だからそれが悪いかというと、そうでもないです。イメージが多面的になったということです。エーヴェルト警部のシリーズの中ではエンターテインメント色が強く、読書会では「映画化もいけそう」という話も出たと記憶しています。後に版元倒産で絶版になった『死刑囚』もAmazonで手に入れました。
翻訳ミステリー大賞シンジケート金沢読書会第3回レポ(2014/04/05)。
![]() |
三秒間の死角 上 (角川文庫)アンデシュ・ルースルンド
角川マガジンズ 2013-10-25 |
![]() |
三秒間の死角 下 (角川文庫)アンデシュ・ルースルンド
角川マガジンズ 2013-10-25 |
ヘレンハルメさんが帰国すると知り、是非東京までお話を聞きに行きたいと思いました。
この日は、しばらく前のエントリに書いた「須賀敦子の世界展」(ヘレンハルメさんも須賀さんがお好きだそう)に午前中行ってて、午後早く横浜からギリギリで田町の会場まで駆けつけました。会場となったフィンツアー(ここを使うのは今回限りだということです)は北欧専門の旅行会社で、会社の中を見ている時間の余裕はありませんでしたが、慶應大学三田キャンパスのすぐそばです。そこの1室を借りてトークは行われました。
入るともう始まりかけで、女性が2人前にいらしたのですが、ヘレンハルメさんはお顔を拝見したことがないけどすぐ分かりました。何となく髪とか長そうなエレガントな感じ(多分、再び名字のせい)を持っていたのですが、ご本人は短めのショートヘアで、目がくりっとしていて印象的で、フェアアイルノルディック風のセーターと短めのボトムスがお似合いでした。一見して活発な印象を受けました。わたしもショートヘア歴長いのですが、なのでショートの似合う女性は素敵だなと思います。いい意味で予想を裏切られました。
資料は、ノルウェー夢ネットの方と相談して、一部だけ写真に撮ってアップします。写真が一杯入った6ページの詳しいレジュメでした。最初はまず自己紹介から。越前先生や、先生のところで翻訳を勉強している方もいらしてました。他には、上記のエントリ中にも一部書きましたが、映画上映をなさっている方、北欧に興味のある方、合計20名ほど。関西と富山(わたし)から各1人ずつの他は関東の方でした。
お話は、ノルウェー語使いの司会者の方との対談形式で行われました。「ノルウェー夢ネット」ですから、普段はノルウェーの話をしているそうです。ただ、北欧の中ではスウェーデンが「アニキ」、ノルウェーは「弟」みたいな位置づけらしいですね。その両国を対比させながら話が進みました。
わたしはまだ『三秒間の死角』しか読めてなくて、えらく売れたという『ミレニアム』シリーズも映画化されたときに存在を知ったくらいでした。そのヘレンハルメさんはもともとフランスに留学していて、それはそれで楽しかったそうですが、自己主張の強いフランス人と比べて、北欧人といる方が気が楽だったそうです。「そういえばフェルゼンとか、フランス贔屓の貴族とか王様がスウェーデンにいた」という話が出ました。
『ミレニアム』翻訳の裏話ですが、もう読んでいて面白かったのでお話をもらったときは嬉しかったそうです。グロテスク・残酷なシーンも多かったそうですが、その前に訳したルースルンド&ヘルストレム『制裁』の方がしんどかったと。「苦労は忘れる、でないと辛い」という感じで翻訳されているそう。6冊もある本ですし、ペース配分を考えなければならなかったし、スウェーデン近現代史、公安警察の歴史の調べ物が大変だったそうです。
![]() |
ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)スティーグ・ラーソン
早川書房 2011-09-08 |
話は北欧ミステリーに移ります。『ミレニアム』などが外国で売れたおかげもあって、スウェーデンミステリーは有利な立場にあるそうです。あと、商売上手だそうです。何だかえらく細かいミステリー作家の相関図がでたのですが、1930年代には米英のポーやドイルの影響が大きく、犯人は外国人というのが定番でした。クリスティもそうだったと。40年代に黄金期が来て、チャンドラー、ハメット、クリスティ、カーなどの影響がありました。
ノルウェーの場合、有名なのはジョー・ネスボ(自分の顔写真を著作の表紙に使う)でエンターテインメント系、アンネ・ホルト(法務大臣の経歴あり)は社会派という感じです。たしかジョー・ネスボの書影をヘレンハルメさんが映そうとしたら、PCが落ちて。何かの呪い?みたいなことを言ってたような。
今のスウェーデン・ミステリーの主流からかいつまんで書くと、
社会派:マルティン・ベック・シリーズ(エド・マクベインの影響)、マンケル、ルースルンド&ヘルストレム、ラーソンなど。
リゾート派(ご当地ミステリー:島の中で事件が起こるなど):カミラ・レックバリなど
テレビドラマを思わせる作品:『犯罪心理捜査官セバスチャン』(ヘレンハルメさんの新刊です!)
![]() |
犯罪心理捜査官セバスチャン 上 (創元推理文庫)M・ヨート
東京創元社 2014-06-28 |
![]() |
犯罪心理捜査官セバスチャン 下 (創元推理文庫)M・ヨート
東京創元社 2014-06-28 |
これ、面白そうですね。セバスチャンはクセのある人物らしいし。
話は戻りますが、ノルウェー人はスウェーデン・ミステリーを読んでいるそうだけど、逆はあまりないようです。言葉が似てて、相手の言葉で読めちゃうらしいんですが。
北欧ミステリ読んでると怖いことが沢山出てくるんだけど、本当にそんなに怖い都市なの?という質問にヘレンハルメさんは、「マルメという治安の悪い都市に住んでいるけどそれはない」と。マルメはスウェーデンの南端にあります。スウェーデンというと金髪碧眼のイメージがありますが、移民も多いしそういう人は歩いていなくて、マルメでは移民が30%だそう。最近はシリア、イラクからが多いそうです。国のポリシーとして「受け入れられるだけ受け入れる」というのがあり、賛否両論あるらしいです。
そして、オススメミステリー。
社会派ミステリー
- スウェーデンの古典、マルティン・ベック・シリーズ『笑う警官』。犯罪者は社会の歪みの犠牲者、という立場だそうです。
- へニング・マンケルの刑事ヴァランダー・シリーズ。
- アイスランド、アーナルデュル・インドリダソン『湿地』『緑衣の女』
- ノルウェーのアンネ・ホルト
- ルースルンド&ヘルストレム。まずは『三秒間の死角』から入って、面白かったら『制裁』『ボックス21』『死刑囚』もどうぞと(注:後3冊は絶版なので、中古か図書館になります)。
- アルネ・ダール。邦訳は1作目『靄の旋律』のみですが、10作ほど出ていて、スケールが大きいです。
- これからの有望株はクリストファー・カールソン(Christoffer Carlsson)。20代の犯罪学研究者で、「なぜ犯罪を犯すのか」、「出所した後のこと」などを研究しているそうです。
リゾート系
- カミラ・レックバリが王道
- ヨハン・テオリン『冬の灯台が灯るとき』は、ホラーの要素が入った切ない話。
テレビドラマ系
- ヨート&ローセンフェルト『犯罪心理捜査官セバスチャン』シリーズ。
- デンマークのユッシ・エーズラ・オールスン『特捜部Q』シリーズ。
- 未訳のスウェーデンもので、共に脚本家のベリリンド夫妻(Cilla&Rolf Börjlind)は多分邦訳が出る。
無国籍エンターテインメント系
- アレクサンデル・セーデルベリ『アンダルシアの友』、マフィア抗争
- ヨアキム・サンデル『Simmaren(「スイマー」の意)』、邦訳近刊予定。
- デンマークのクリスチャン・モルク、『狼の王子』
心理サスペンスでは、
- カーリン・アルヴテーゲンのとくに『喪失』。
- ノルウェーのカーリン・フォッスム。
- ラーシュ・ケプレル。とても不気味なのに、イメージが美しい作家。
ここからは翻訳する上での難しいところ。
- 北欧と日本の習慣の違い。犯人が捕まりそうなのに刑事が土日休むとか、仕事中にネットオークションしてるとか、学校制度がお互い違うとか、例えば40歳で学生、という設定で校正の時にチェックが入ったことがある。スウェーデンでは別に普通らしい。
- スウェーデンに住んでいるので、結局国語辞典を一番引いている。
- スラングについては、周りの人に聞くけど結局頼れるのは自分。
- 「差別用語」に関しては、こういう言葉を使う人間だ、という表現のため大人向けのスウェーデンの本では使われるが、それを日本語にすると待ったがかかる。
ここで「ほっこりしない北欧」のシリーズの話になりました。「翻訳ミステリー大賞シンジケート」の連載で、わたしも連載が楽しみだったですが、皆さんが北欧に対して持っている平和なイメージを覆すような話でした。
せっかくなのでヘレンハルメさんのブログから引っ張ってきます。ここに記事へのリンクがあります。北欧に興味のある方は多分予想を裏切られると思うので、是非。
「ほっこりしない北欧案内」連載
ヘレンハルメさんは、一般化は難しいけれどスウェーデン人はリベラルで常識がある、という印象だそうです。
ノルウェーのいいところは、スウェーデン人には裏表があるけどノルウェー人にはないこと。押しが弱いので商売っ気を出して!と。
他の北欧諸国についての印象は、
デンマーク人…明るく大らかでいい加減
フィンランド人…日本では「ムーミン」「マリメッコ」「かもめ食堂」の三種の神器(?)でほっこりしたイメージがあるけど、そのイメージと違いすぎる。気性が激しく、素朴で、いつも酒を飲んでいるイメージがある。
アイスランド人…神秘的な国。無愛想だけど親切。
ヘレンハルメさんが「スウェーデン人ぽくなってきた」と感じるときは、寒さに強くなり、敬語が下手になり、手酌や名刺を忘れるとき。日本のマスコミで見られる女性蔑視が気になり、他人にどう思われているかは気にならなくなった(注:最後の所、いいなーと思いました)。
ミステリーの辺りを脱線しながら説明されたため最後の方駆け足でしたが、もちろんこのエントリ全部レジュメ通りじゃないんですけど、最後にノルウェー人とスウェーデン人の会話を発音練習して終わりました。うまく発音できなかった……。
ヘレンハルメさんにはご挨拶して、Twitterでつながっているので話が早かったですが、『三秒間の死角』にサイン頂きました。その時気付いたんですけど、ヘレンーハルメなのですよね。トークの間にも感じたのですが、どことなくシニカルなような、でもくすっと笑えちゃうユーモア感覚を持った方でした。あと、笑顔が素敵でした。
しばらくぶらぶらした後、帰りの新幹線です。
あと何回、この上越新幹線に乗れるかな。3月15日からは、長野回りの北陸新幹線になるので。2時間で東京に行けるのは嬉しいけれど、今までの電車にも愛着があるよなあ、と帰り考えていました。
金沢読書会は1/10との告知が出ていて、もうかなり席が埋まっています。もう申し込み済みで、今度こそ風邪を引かずに行きたいです。越前先生の訳書なので、先生も帰省されますよ!