ヨシダヒロコです。
解説入れて611ページの本で、仕事終わった後にゆるゆる読んでいたので、読了に時間がかかりました。
ハードカバーが出たとき(2004年)に、今はない近所の本屋で題名に惹かれていたのですが、雑誌「こころの科学」のコラムで風野先生がお薦めしていたこともあり、文庫本を買ってみました。ハードカバーの装丁が特にいいんですよね。一時、楽天でリトグラフが売っていたようでしたが手の出ない値段でした。SFの賞ではわたしでも名前を知っている、ネビュラ賞を取っています。
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くらやみの速さはどれくらい (ハヤカワ文庫 SF ム 3-4) エリザベス・ムーン 早川書房 2008-12-10 |
自閉症が子供のうちに「治療」できるようになった近未来の話。主人公のルウ・アレンデイルは自閉症ながらも、自閉症専門のセクションで製薬会社に勤め、パソコンでパターン解析の仕事をし、毎週同病の仲間に隠してフェンシングを習いに行き、そこで知り合った女性に恋心を抱いたりもします。後書きにもあったとおり、今DSMが変わって消えることになった「アスペルガー症候群」の範疇に入る人のようです。もちろん、「治療」を受けたからですけど。
それでもルウは健常者(作中では「ノーマル」)との付き合い方、言葉の端々に違和感を感じることがあります。この辺はアイデンティティの問題だろうかとも思いますが、障害者であるわたしにも共通です。
彼はこのことを率直に言うべきだと私は思う。もしこの治療が多くのダメージを生んだ場合、私たちは前より悪くなり、会社はもっと長期間私たちを支援しなければならなくなると言えばいいのだ。だが正常な人たちは、率直にものを言わないことを私は知っている。(p538)
「この治療」とは、上司であるミスタ・クレンショウが言いだした、まだヒト以外の霊長類でしか実験結果がない、自閉症の新しい治療法で、当初ルウたちは、「この治療を受けなければ解雇する」と脅されます。
職場の自閉症の患者仲間のうちでも、治療を受けるかどうかについては意見が割れます。不便であっても自閉症は自分のアイデンティティですし、もしかしたら治療で自分の状態がもっと悪くなり、元の自分ではなくなってしまうかもしれないですし、良くなって「ノーマル」になれても、記憶が元の通りではないかもしれません。それでも「ボランティアになる」という仲間が現れます。ルウはどうするのか。
読了したのは昨夜ですが、予想通りの箇所があり、何だかしんみりしてしまいました。この本は現代版の「アルジャーノンに花束を」と言われているらしいですが、こちらの方は(売れすぎたせいで)まだ読めてないです。
最後にタイトルですが、原題は”The Speed of Dark”です。光の速さと暗闇の速さという対比が何度も作中に出てきます。確かに暗闇の速さという概念は聞いたことがありませんが、魅力的な言葉だと思いました。後書きに、誰が言った言葉かが書いてあります。