ヨシダヒロコです。
ひとつ前のエントリに続いて、「京」を知る集いin 新潟の後半部分です。
まず、当日のパンフレット(予定表など)を前編でアップしてなかったので、ここで上げときます。
休憩時間には、沢山の人がスタッフのところに詰めかけて色々質問していました。ひとつ、これは馬鹿すぎると思ったのを曝しておきます。原子力オタクとか言う、立派なカメラを持った若い男性がいました。スタッフに「核兵器とか作れないんですか?」と聞くんです。理研の方は冷静に「『京』は平和利用にしか使いません」とおっしゃってましたっけ。
質問に詰めかける人々。わたしも質問して、結果の出力というか画面上で見るのはPCに接続して行うんです、と教えて頂きました。
本体とシステムボードの1/10模型。これも人をかき分けるのに苦労しました。
会場からは、見えにくいですが川が流れています。
これは宣伝。
紙版は、おみやげで頂きました。まだ開いただけで、読んでも意味が分かるかどうか。
さて、休憩が終わって後半部分。
その前に、前半のQ&Aが一部抜けていたので書いておきます。
Q5.何年くらい使う予定?
A5.答えにくいです。スパコン自体は10年くらい使えますが、進歩が速いのであっという間に追いつかれてしまいます。5~6,7年して同じ値段で新しいものを入れた方が効率がいいです。
Q6.京の次に目指す速度は?
A6.10京から100京です。
Q7.京はどこにつながっていますか?
A7.日本中のインターネットで。許可が下りれば使えます。
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後半に入って、次のお話は、「『京』コンピュータで薬をつくる」京都大学大学院薬学研究科 システム創薬科学の奧野恭史教授です。バイオインフォマティクス系の方のようです。
奥野先生は「京と薬がどうつながっているの?」とよく聞かれるそうです。答えは、製薬会社が参加した創薬イノベーション。新薬は開発に10年かかると言われます。かかる費用は500~1000億(失敗することもある)、成功確率は2万分の1です(ばくちのようなものですね)。開発費を抑え、開発を効率化するためにシミュレーションを使っている訳です。
参加製薬企業は、アスビオファーマ、エーザイ、小野薬品工業、キッセイ薬品工業、参天製薬、塩野義製薬、大日本住友製薬、田辺三菱製薬、日本新薬、科研製薬、杏林製薬(ハンドアウトより)。大学(京大)と協同でというのは海外になく、マウスとヒトの違い、副作用の問題などから次世代スパコンに期待がかかっているそうです。
このスライドは薬作りの考え方を示しており、細胞増殖に関連するタンパク質に生体物質ATPが結合することにより、細胞が増殖します。がんとは細胞が異常増殖する病気です。両者の結合をブロックする化合物があると細胞増殖が止まり、それが抗がん剤です。創薬とは、病気の原因タンパク質を見つけ、それに結合する新規化合物を創ることと言えるそうです。
化合物の種類は10の60乗、タンパク質の種類は10万、人間が考え、実験で確かめるのは無理です。なので、実験の代わりにコンピュータ上で結合をシミュレーションします。そこで「京」の登場ですが、化合物とタンパク質の結合誤差を考慮して、よさげなところに収束します。アンサンブル・シミュレーションといいます。「京」によりコンピュータ創薬のブレークスルーが可能となりました。
結合予測には、デジカメで使われている顔認識の技術が応用されています。あれは大量の人の顔画像を学習して、人の顔を自動認識します。同じように「京」も、大量のタンパク質と化合物の結合データを学習し、病気の原因タンパク質に結合する化合物を認識します。
論文などで結合することが分かっている12万ペア→「京」が結合データを学習→予測を行う→病気の原因タンパク質に結合する化合物を認識→189.3億ペア(世界最大規模)の結合予測・631種のタンパク質と3000万種の化合物の組み合わせ→予測結果を基に、各製薬会社が独自に開発を行う
ただし、この631種には、記憶がおぼろなんですが、必ずしも製薬会社のターゲットではないタンパク質も入っているらしく、それはコンプライアンスの問題で、大学側も立ち入ってはならないことになっているとのことでした。
下のスライドは予測の実例ですが、かなり一致しているのが見て取れます。実験しなくても再現できるということで、ちなみに汎用計算機では2年かかるため実用的ではないそうです。
「京」が従来型の結合シミュレーションと異なるのは、従来型は真空中で動かす設定になっていたのに対し、「京」では周りに水分子(溶媒)を置き、分子を動かすことができます。
実験では、新規化合物を合成し生物活性評価するのに2ヵ月程度かかるのに対し、「京」では3日程度です。人間の労力は要りません。数多くの化合物を計算するためには、もっと高速な計算機が必要で、1分くらいで計算ができるポスト「京」が望まれます。
まとめとして、「京」/ポスト「京」による創薬イノベーションで、開発期間(これはあまり短くできない):10~13.5年、成功確率:20分の1~300分の1(従来は2万分の1)、開発費用:100億円~250億円(従来は500億円以上)となり、開発費が削減されることにより、製薬産業の景気アップ・医療費の根本削減・難病などの医薬品開発が可能になります。
なお、JSTサイエンスチャンネルで同内容の放送があります。
http://sc-smn.jst.go.jp/M120001/detail/M120001027.html
この講演が特にわたしには面白かったです。ただし聴いてから時間が経っていたので、かなりハンドアウトに頼りました。
最後の講演は「『京』コンピュータで巨大津波を予測する」海洋研究開発機構 地震津波・防災研究プロジェクト 技術主任の馬場俊孝さんです。ちなみに金沢大の先輩に当たります(学部は違いますが)。
グラフィックスが美しかったので……。
どうしても東日本大震災の話になり、みなさんしんみりと沈んでしまうので、AKB48の話も入りました。ただハンドアウトからかなり外れたことを話されたので、うまく再現できるかどうか。
割と最初の方で、もう皆さんご存じの津波の爪痕を、宮城県女川町に行かれたらしいですがスライドで見せてもらいました。パニックの中でも逃げられるよう日頃からの訓練を、とのことでした。四の五のいわずに逃げるのが正しいそうです。
それと、阪神淡路大震災との比較。人的被害は東日本が27006人、阪神が51159人と阪神の方が多いのですが、死者・行方不明者の数が全然違います。死者は15883人に対し6434人、行方不明者は2676人に対し3人でした。負傷者は6144人に対し阪神が43792人でした(消防庁調べ)。
これは東日本大震災の揺れのシミュレーションです。
日本は地震活動期に入ったかもという不吉な話もあり、確かに去年の秋頃だったか、立山砂防カルデラ博物館の講演でも似た話が出たような。古くは869年に遡る貞観地震(三陸地方)前後に色々あったそうです。この前後に富士山・阿蘇山噴火、関東での地震、南海トラフ地震が起こっています。
新潟も地震の多い県で、しばらくその話になりました。うちのある富山にも揺れが伝わってきたものです。
これは1964年(昭和39年)新潟地震のシミュレーション。市内が被害に遭ったそうで、M7.5、死者26名でした。
ところでAKB48と「京」に何の関係があるかというと、個の力を集団化することによって絶大な人気を得る、一斉に散る桜のような日本人らしいところが似ているそうです。
前編で出てきた「京」のネットワーク”Tofu”の図がここでありましたので、貼っておきます。
ここからは大規模津波シミュレーションが減災に果たす役割についてです。平時にはハザードマップや津波災害の詳細な再現を行っておきます。津波発生直後には、初動で、数分以内に津波を予測、数時間以内に浸水を予測します。災害の全貌をつかむのは容易ではなく、夜間・悪天候ならば尚更です。
東日本大震災の場合、最初は誰も何が起きたのか分かりませんでした。災害対策本部の立ち上げは宮城で1時間以内、さらに自衛隊・警察への応援要請など。☆ しかし被害の全貌が明らかになったのは3月12日、知事が上空から視察し「高台以外は全壊」であることが見て取れたときでした。この「鳥の目」に対し、職員派遣による「虫の目」も行われました。目標は、☆のところで数時間以内にシミュレーションを行うことです。
下は高知県の津波計算ですが、スライドより今は計算が速くなっていて、2~3時間で終わらせることが可能だそうです。こういうのを県の防災対策室にリアルタイムで送るわけです。
DONETという地震・津波観測監視システムがあり、様々な役所や研究所にデータをリアルタイム伝送します。将来的には、避難シミュレーションや津波計算をスマートフォンなどに送れるようにしたいとのことでした。
最後はメモも切り上げてバス時間に間に合うようちょっと早く会場を後にしました。予め書いておいたアンケートを渡すと、手ぬぐいかこれ↓かどちらかがもらえたのですが、受け狙いで下にしました。何書こうかもったいなくて迷っちゃうな。
バスはゆっくり来たのであまり急ぐ必要はなかったのかも知れませんが、逃すとしばらくなかったので。買っておいた新幹線のチケットを使って、東京へと向かいました。翻訳に使うWordマクロのセミナーが翌日だったからです。
なにやら駅は工事中のよう。
新潟からの新幹線は初めてでした。
これは東京駅。さすがにバテたので、このままホテルに直行して、夜はホテルに篭もって過ごしました。
(同日18:39追記:8月24日に東京で、「スパコン『京』の今後はどうなるの?」という講演会が開かれます。定員400名。リンクから申し込んでください)