化学・医薬方面の翻訳者をしています。患者ですが、いつか精神科などの症例報告等訳したいなと思っています。
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就活でうつにならないための本向後 善之秀和システム
2013-02 |
この本はツイッターで知ったのですが、面白かったので一気に読んでしまいました。
著者の向後氏はサラリーマン生活の後、40歳を過ぎてから留学、カウンセラーの資格を取った方です。文章に無駄がなく、レイアウトもすっきりしていて(字数が少ないのかもしれませんが)割とすんなり読み終えられるでしょう。
ただし中身は濃いので、複数回に分けて書きます。
自分自身はバブルとその後の不況のちょうど境目にいました。学部生で就職できれば口があった、最後の年だったらしいです。進学(&中退)したため、まともな就職口はありませんでした。
今の就活は過酷ですよね。どう過酷か、そのスケジュールはもうちょっと後の方に出てくるんですが、まず、本の中にあった「求められる人材」という文章を引用します。
笑顔でハキハキ話す、誰にでもあいさつができる、職場にとけこもうという姿勢が見られる、アフターファイブの付き合いがいい、能力が高いのに謙虚、素直に質問ができる、メモを取りながら真剣に話を聞く、自分のやり方を主張しようとするのではなく職場のやり方を吸収しようとする、雑用もいとわない、役立つノウハウを提供してくれる、既存社員が気付いていなかった改善点を嫌みなく指摘してくれる、既存
写真社員に好かれる、楽しめる趣味がある、アピール力がある、プレゼン力がある、必要な資格と学習力がある、判断力、実行力、馬力のある人、変人、とんがった人材、コツコツまじめ、笑顔がすてき、大きな声で謝れる、コミュニケーション能力がある、将来の目的がしっかりと決まっていて、そのために今自分が何をすべきかを、しっかりと把握している人、夢があってそれに向かって一生懸命な人、協調性、主体性や責任感、学業成績が「優」より「良」の学生の方が好感、大学教育の内容より、コンピテンシーやスキルが重視される。
…だそうです(p13)。ドラえもんか何か、この世には存在し得ない何かについて述べているようですね。本当にお疲れ様です。
性格傾向は1度の面接では分からないことがあるそうです。著者は人格障害(パーソナリティ障害→DSM Vでさらに変わるらしい)について述べていますが、たしかに元診断されていた自分も、豹変することがありました。そういう人はプロでも何度か面接しないと分かりません。
著者は、上記の「求められる人材」が「採用担当ないしは企業幹部の好み」とまで言い切っています。そして、そのような金太郎飴のような人材が求められれば、学生は紋切り型のコメントばかりをし、採用側は「最近の学生は個性がない」と言い……。
そして面接官についても著者はクライアントとして指導しているのか、面接の際には「傾聴」が重要だと言います。言葉のみならず、表情や姿勢、声のトーンなどの非言語メッセージを含めて会話をし、その中から相手の心を聴く、と。その心は「タブラ・ラサ」、白紙でなければなりません。
面接じゃなくても大事なことのような気がしますね。
就活生もカウンセリングオフィスにやって来ます。圧迫面接というのがありますよね。似たようなのをわたしも1回受けたことがありますが、面接官がわざとあくびをしたり、ボールペンを投げてメモを取らなかったり。著者によると、「ダメ面接官にダメ出しをされたあなたは、スバラシイってことですよ。マイナス×マイナスはプラス!」だそうです。就活生の皆さん、良く覚えておきましょう。
今の就職システムは変で、みなが就活にかける時間が膨大なものになっています。挙げ句の果てにうつやパニックで退職する人は増えている。そうすると人事担当者の中には「最近の若者にはストレス耐性がない」と言う人もいますが、じゃあそれを見抜けなかったのは誰でしょう?
そして、人をけなすのは簡単ですが褒めるのは難しいです。p33に著者がアメリカで受けた教育のことが書いてあり、わたしがごく短期間受けた教育(イギリスでしたが)に似ています。褒めるときはすごく褒めてくれます。”Excellent”とか”Extraordinary”とか。”Dramatically Improved(大変な進歩だ!)!”ってのもあったそうです。もちろん私はちゃんとした留学経験はなく、偉そうなことは言えませんし、英米が必ず正しいとも思ってません。
生徒の性格にも寄りますが、その後家庭教師を長くしていて上記の経験が役立ったことは確かです。うまく褒めるとこっちが驚くような進歩を見せることがありますから。
そんなわけで、評価する側は自分の頭で考え、いいところと悪いところを伝え、就活も精神論ではなく実践的なスキルを問うて欲しいというのが著者の考えです。
ここまでが1章で、2章では就活生のスケジュールが語られます。40代以上の方は多分驚かれると思います。
3年生12月に合同説明会・業界セミナー・学内セミナー→企業へのプレエントリー→個別会社説明会。エントリーシートや面接でのアピールの仕方を考えます。
エントリーシートの例がp40、41にあります。
オーソドックスなもの。
- あなたの生き方に対し、最も影響を与えた「きっかけ」は何ですか?エピソードを踏まえ、具体的に説明してください。
というものから、
- お茶、まゆげ、きっと、という言葉を使ってエッセイを作ってください。
といったふざけたものまであります。
大変なので、エントリーシートの使い回しはできないそうです。
3年生3月 戸別の会社説明会がピーク→4年生4月、大企業で内定者出始め→GW、大企業での内定ラッシュ、中小企業の説明会・選考が本格化、大企業の2次募集。ここまでで数十社。
となりますが、実は就活はもう1年から始まっているのです。1年生ではサークルやアルバイトの選択が大事と言われているそうですが、この本に出てくるキャリアカウンセラーによると関係ないとのことです。2年生ではTOEIC取ったりするのが有利とか言われますが、これも決定的に有利とは言えないそうです(わたしも高校生を教えていて、資格があれば食っていける系の親御さんたちを良く相手しました)。同じく、インターンもやったから有利というものではないそうで。
3年生になると筆記試験の準備、業界分析、企業分析などをし、エントリーシートや面接でどうPRできるか考えながら自己分析。3年の11月辺りに、自分の長所や短所からどの職種が良いか文章にまとめます。
上に書いたようなことは自分の興味に従って参加するのが良く、噂に踊らされないことが重要だそうです。噂や情報には良くダブルバインドが見られます。相反する情報を同時に伝え、情報を得た物者が混乱します。混乱は焦燥感を生み、しまいには本番前に疲れ果ててしまいます。
p52~53にかけて、面接慣れしすぎた受験生を著者が面接した話が出てきます。受験生の話は同じ話の使い回しでした。それを別の学科でもやってしまい、面接官が同じ(=著者)だったと。こんな感じです。「私が中学2年の時、親戚がうつ病にかかり、見舞いに行ったときに臨床心理士さんと始めてお会いして、お話を伺う機会を得、こんなに素晴らしい仕事があるのかと感激いたしました」。
ここでさらに困るのが、親の介入。例えば「うちの子は、家から通えるところに就職させるんです。テレビでコマーシャルをうてるくらいの大企業に勤めさせるんです」など。げんなりですね。他にも、父親が息子になりすましリクナビに登録し、息子に何月何日の何時に面接を受けに行けと指示するとか。
さっきかっこの中で書いたような、資格に頼る親も出てきます。もちろん子供の適性は考えていません。
このような親は子供との精神的な境界線が曖昧で、ナルシスティック・エクステンションと呼ばれるそうです。親が自己愛的に自分の希望を子供に押しつけるのです。わたしはこういう例は沢山見聞きしましたね。
p58~59に、アメリカの例でどうしても親がハーバード大しか許さなかったという例が出てきます。子供はプリンストンに入れたのに、それでもダメだと。結局無理矢理息子を転佼させ、息子は心を病んでしまいます。
最近の親の三大事業は「受験・就職・結婚」であるらしく、ずっと世話を焼き続け、親の不安は子供に伝染します。
このような色々な要素に、今日日のTwitterやFacebookでのチェックが入ったりして、就活生は不安になり、うつに移行することがあります。うつは「私はダメだ」と思い込んでしまうので、それが「私なんていない方がいい」になり、自殺の危険性も高くなります。
就活で自殺というニュースが以前流れたとき、そんなことで自殺なんて、と言っていた人が以前ネットで結構いたような気がしましたが、その経緯を書くとこれだけのことが起きているようです。
元々は不安から生じているので、そこを克服すればうつへの移行は防止できるそうです。
ということで、3章以降に続きます。