こんにちは。富山で化学を中心とする技術翻訳をしていますヨシダヒロコです。
(2013/03/12:追記が一番下にあります)
実はわたしは、何回か書いてきていますが、長いこと精神科の患者です。病歴は20年になります。病状は混沌としていて、病名にも多々変遷がありましたが、現在は「双極性障害II型(4/30追記:「障害」が抜けてました)(躁うつ病で、うつに軽い躁を伴い、患者さんはしばしばうつ病の患者さんの中に混じっている)」という診断になっています。ここ数年は最高に大変だったのですが、現在は処方を見直し、強い安定剤が1日当たり10錠ほどいらなくなり、QOLが大幅に向上しました。ここ1年未満のことです。
このエントリではその病歴の中でも、先ほどNHK総合で放送された「新型うつ病」ではない「うつ病」もしくは「うつ状態」になった経験と絡めて、「ツレうつ」のお話をしたいと思います。よろしくおつきあいください。
(2023/04/26追記:本や映画への紹介リンクが切れています。商品だけ張り直しました。映画は配信でも見られます)
著者の細川貂々(てんてん)さんは売れない漫画家。ツレはIT関係のサポート関係に勤める几帳面な夫です。どれくらい几帳面かというと、毎日お弁当を作り、お気に入りの決まったナチュラルチーズを月曜はこれ、火曜はこれ、と詰めるのです。子供はなく、イグアナがふたりの心の支えです。そんなふたりに災難が降りかかります……。題名の通り、ツレが激務のあまりうつを発症します。ツレは会社を休職し、療養生活が始まります……。
原作はかなり売れたそうです。「その後のツレがうつになりまして」などを始め、貂々さんはエッセイ漫画家としての地位を確立し、その後も身近な題材をほのぼのしたタッチで描き続けています。といってもわたしは第1作しか読んではいないのですが、のちにおめでたいことも起こりますしね(本屋の店頭で見かけたので)。
詳しくはネタバレになりますしすぐに読めるマンガなので書きませんが、この原作の魅力は、あくまでほのぼのした画風にもあると思います。わたしにも近しい人間がうつになった経験はありますが、布団をかぶって寝込まれると、自分のときと同等くらいにしんどいものです。それを貂々さんはユーモラスな絵にしてしまいます。
下手な自己啓発本よりはよほど患者さんにお勧めです。と思って患者をしている知人に本をあげたところ、すっかり貂々さんのファンになってしまいました。そういうわけで、実は今手元に本はありませんが、本当に何回も読み返しました。知人もそうだったそうです。文庫本も出ていますが、たぶん大判の本の方が良く絵が見えると思います。
時々入る貂々さんの絵が和む。
そして、今新作となってビデオ屋の店頭に並んでいるのがこれです。最近見ました。今ゲオの準新作・旧作が50円なので行ってきたのですが、うちの近所で2本がもう借りられてましたね。もし、これを読んで興味を持たれた方はぜひ見てみてください。
映画はまあまあ原作に忠実です。カップルの年代が多分10歳近く違うんではないかとは思いますが、まあそれはたいした問題ではないので。出たばかりのDVDですので、ネタバレはできるだけ控えたいと思います。貂々さんの恐らく新しく描いた絵が沢山出てきて場を和ませてくれますので、ファンの方はお楽しみに。
映画 ツレがうつになりまして オフィシャルサイト
ここで予告編や貂々さんのカット画が見られます。
1ヶ所だけネタバレします。原作ではとてもさらっと書かれていたことですが、ツレが危機的状況に陥るシーンがあります。そこで、宮崎あおい演じるハルに慰められながら、堺雅人演じるツレが言います。
「ぼくなんていなくても誰も困らない」
わたしも似たようなことを何十回、いや何百回考えたことでしょう。重い言葉です。うつ病の怖いところは、神経伝達物質の不調か何か知らないけど、こういうことを本気で考え、そして「死んだほうがましだ」「死のう」となってしまうことです。断言できますが、健康な人には全く理解できない思考回路だと思います。
最後のクレジットを見ると、各種精神科関連団体の協力を得ていることが分かります。
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話が少しここで変わりますが、うつ病になったらどうしよう、と恐れている人々は多いと思います。今書いているのも、現患者、元患者さんたちの他にそういう人たちにも届いて欲しいからですが、良くなったり悪くなったりしながら、仕事を続けることは可能です。休職しなければならないこともあるとは思いますが。
思うに、うつ病の患者さんは休むのが下手なのです。「ツレうつ」の中でも、どうやって休んでいいか分からない典型的なうつ病患者としてツレが描かれています。だからちょっと良くなるとすぐに無理をしてしまう。わたしの病気が長引いたのも、職場の無理解(例えば診断書を渡すと2週間病欠を与えて、さあ治ったでしょ、といきなりフルで働かせるとか)に加えて、そういう自分の性格も関わっていたのに違いありません。
ところで、先日から運転を止められたてんかんの患者さんが事故を起こして大問題となりましたね。てんかんはきちんと服薬していれば結婚も出産もできると、東北大の中里先生がおっしゃっています(必読のTogetter-わたしもいます(笑))。
この事故の時に、例えば「キチガイには免許を取らせるな」というような暴言を吐く輩、勿論匿名ですが、わらわら沸きましたね。その時は気がつかなかったんですけど、どうもわたしはこの話題で消耗したようです。
あのですね、産まれたときから精神病の人なんていないのですよ。あなただってなるかもしれない。わたしだって21までは人よりタフなくらいだったのですよ。
うつ病を恐れる人にはきついかもしれませんが、一般的に言われている症状(自分の経験した症状に偏っているかもしれませんが)を書いておきます。
食欲減少、体重減少、睡眠障害(不眠や途中覚醒を思い浮かべると思いますが、過眠もあります)、短距離でも歩けなくなる、布団の中からほぼ1日中動けない、お風呂に入る気が起こらない、趣味への興味がなくなる、家事ができない、もちろん仕事もできない、決められた期日が守れない(待ち合わせ、医者の予約など)、朝起きたときの気分が最悪、性的不能、ざっとこんなところでしょうか。調子には波があり、日内変動と言われる午前中調子が悪くて夜にかけて良くなるという特徴があります。
ちなみに、薬を飲むと色々良くなるんですが体重は過重になる場合があって、わたしも苦労しました。
最後に、最初にも書いた新型うつ病について。あまりにもNHKの番組が稚拙だったのでちょっと調べたところ、「新型うつ病」という病名には何ら根拠がないことが分かりました。日本でしか言われていないと最近知ったところでした。
Wikipediaにも記述がありますが(リンク先の8-3)、これがソースです。
日本うつ病学会
ここはうつ病に加えて双極性障害のガイドラインなども出しています。
Q4. 新型うつ病が増えていると聞きます。新型うつ病とはどのようなものでしょうか?
↑これ、必読です。
アメリカの診断基準DSMが現在Vに改訂される予定で、知る限りでは学習障害やペドフィリアについて変更があるそうで、数日前に別の聞いたことなかった障害(間欠性爆発性障害:患者が突然激しく切れるが、どうも医学的根拠に乏しいらしい。当事者が情報を求めて右往左往している模様)の話が学会誌のメルマガで流れてきましたので、他の疾患についても何か変更があるかもしれません。
最後のおまけに、5月病に関する精神科医師のエントリ。うつの予防の仕方が書いてあります。わたしが病気になったのも5月GW明けでした。どうぞお気をつけて。
木の芽どきのメンタルヘルス
(4/30追記)新型うつ病は、かつての神経症性うつとして存在したという専門家の意見もあるそうです。
もうひとつ、こんなツイートもありました。
加藤忠史 @KatoTadafumi
“新型うつ”: 青年期特有の未熟な自我、経験の乏しさ等に起因する職場不適応事例が、精神科を受診した結果、「抑うつ状態」との診断書を発行され、一定期間の休養指示及び薬物療法等、うつ病としての対応が取られることにより、周囲が困惑するという社会現象のこと。(私製精神医学辞典より)
(2013/03/12追記)ツレさんがほんとうはうつなのか双極性障害なのか、それはお医者様でもなかなかわからないことではありませんか?